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4-1 婚約者が二人
「僕以外に婚約者がいるってどういうことだよ!」
「俺が決めたのではない!」
「アンジェリカ様は奥様が決められた許嫁とか」
「奥様……?」
「俺の実母だ」
「その、私どもも実際のところは誰も立ち会っていなく、ただ伯爵は約束したと言いきられております」
困惑のまま客間に入ると大きな巻き毛を何重にも巻き上げた青い瞳のかわいらしい顔立ちの女子がいた。
「サミュエルさまあ!お久しぶりでございます!戻って来られたと聞いて私居てもたってもいられず」
「…………」
「あら。そちらの素敵なお方はお友達でいらっしゃるの?」
僕をみつけると目をぱちぱちさせて近寄って来た。え?サミュエルに会いたかったんじゃないの?
「近寄るな!」
サミュエルがアンジェリカの腕をつかんだ。
「まあ!サミュエルさまったら嫉妬なさってるのね。ウフフ。大丈夫ですわよ。私婚約者以外にうつつを抜かす気はありませんの。ただ、サミュエル様のお友達は私のお友達でしょう?」
早口でまくしたてられて僕には彼女のいう事が理解ができない。
「私アンジェリカ・ノワールってもうしますの。はじめまして」
「はじめまして。僕はアルベルト・ツイリーといいます」
条件反射的に名乗ってしまった。サミュエルが嫌そうな顔をする。
「まあ!素敵なお名前なのね!アルベルト様はこちらに遊びに来られたの?」
「アルは俺の結婚相手だ!」
「あら。結婚相手って婚約者の事でしょ?それは私じゃないの。おかしなことを言うのね」
アンジェリカはころころと鈴を転がすように笑う。
「俺はお前と婚約などしていない」
「婚約は親同士が決めるモノで当人たちに選択肢はないのよ」
この子は人のいう事を聞かないのだなとやっとわかった。
「それよりサミュエル様卒業されたのでしょ?早くうちにもいらしてよ」
「何故だ?」
「あら。結婚の日取りを決めないといけませんでしょ」
「お前と結婚する気はない」
「……どうして?私は婚約者なのよ。お父様やお母さまからずっと貴方は公爵家に嫁ぐのだと言われてきたわ」
「俺は公爵家ではない」
「嘘よ!そんな嘘ばかりついて!そんなに私が嫌いなの?こんなにきれいな私のどこが嫌なのよ!」
「……全部だ」
「なっ!なによなによ!やっぱり……お父様が言ってた事は本当だったのね?王都であなたが罠に嵌められたって」
「サムが罠に嵌められたって?」
なんだそれは?
「そうよ!マイラ様の策略で好きでもない相手と結婚をしないといけなくなって辺境地に逃げてきたって皆噂してるわ!……そうか!わかったわ!貴方ね!男を相手にしなさいって押し付けられたのね!可哀そうなサミュエル!いくら顔が綺麗でも男じゃないの。公爵家の跡取りが産めるのは女の私よ!」
いきなり落ち込んだと思うと今度は勝ち誇ったように高笑いを始めたアンジェリカを僕は怖くなった。
「この子大丈夫なの?」
「……昔からこんな調子なのです」
デセルトが困ったように返事をする。
「ふん。私のお父様はこの領地でも有数な伯爵家なのよ。この地は我が家の後ろ盾がないとやっていけないのはわかってるでしょ?……まあ今日のところは顔も見れたし。それに貴方、本当に綺麗ね。ちょっと気にいったわ」
「「はあ?」」
僕とサミュエルは同時に声を上げた。いったい何を考えているのだろうか?
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