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 果樹園には見事な果物が育っていた。豊作なんじゃないだろうか?凄いな。 「はあ。そうだったんすね。ここらは噂のほうが早く耳に入るので皆信じちまったんでしょう」  果樹園の管理者はライナスといった。サミュエルと同じ褐色の肌で黒髪だ。なんとなく親近感がわいてしまう。 「ライナスのところの果樹園はすごいね。おいしそうな果物がいっぱいで目移りしちゃうよ」 「ありがとうございます!でも、今年は豊作すぎて半分は捨てなきゃいけねえんですわ」 「え?どうして?」 「価格が下がっちまうんで。ノワール様に捨てろと言われてまして」 「「はあ?」」  僕とサミュエルは同時に声をそろえた。最近二人で声をそろえることが多い。 「確かに価格調整に間引いたりすることはあると聞くが。それは領主に伝えていることなのか?」 「ええ。ノワール様がおっしゃる言葉はご領主様の言葉と同じだそうですだ」 「そんなわけあるか!」 「ひぇえっ。すみません。すみません」 「サム!驚かせちゃだめだよ!ごめんね。ライナス、詳しく聞かせてくれる?」  ライナスの話だとここでの生産や収穫についてはノワールが取り仕切っているらしい。なぜなら『ノワールの言葉は領主様の言葉』だと伝わっているからだと。 「こちらで取れた初物(はつもの)はすべてノワール様の元へまず送られますだ。そこでノワール様用と王都へ送られる分と分けられて……」 「ちょっと待って。何そのノワール様用って?」 「えっと一番美味しい時期のものはノワール様のところへ送られその後出荷先が決められますだ。大抵はお貴族様のところへ」 「サム知ってた?」 「…………いや。初耳だ」  わわわ。サミュエルの眉間にもの凄いしわが寄っている。周りの皆が青い顔になってるじゃないか。初日からこれじゃあまた怖い領主さまって噂になっちゃうよ!イメージアップをしなきゃ! 「あの。皆にはいろいろと迷惑をかけちゃってるみたいだけど、サムが来たから今後はもっとみんなの意見も取り入れてここを良い領地にして行けるようにするからね」 「おいら達の意見も聞いてくださるんですか?」 「当たり前じゃない……ってノワールは聞いてくれてなかったの?」 「へい。栽培自体は口だされないのですが……、年々畑を縮小されちまって」 「なんだと!」 「ひぇええ」 「サム。おちついて。深呼吸しようか。ほら、お水でも飲んでね。僕を見て」  ふーふーとサミュエルが息を整えると僕を抱きしめる。皆が居る前でめっちゃ恥ずかしいけど。これで落ち着いてくれるならと背中に腕を回してさすってあげた。 「ごめんね。皆。サムも初めて聞いて驚いたみたい。あまり表情がでないだけで怒ってるんじゃないからね」 「……そうだ。皆に怒ってはいない」 「ね?こわくないでしょ?」 「は、はい。アルベルト様はすげえ」 「んだんだ。アルベルト様はすげえな」  え?なんで僕が凄いの?凄いのはサミュエルなんだよ? 「それより皆に頼みがあるんだ」 「へ?おいら達にですかい?なんでしょう?」 「うん。僕らがここに立ち寄ったことは内緒にしてくれるかな?」 「内緒ですか?」 「うん。特にライナスにはちょっと手伝ってもらいたいんだ」   ◇◆◇  サミュエル様が領主になられたと噂に聞いていた。マイラ様にまたイジメられて貴族の男を婚約者にされたとも聞かされていたが来られたのは聖女のような方だった。それもあのおっかねえサミュエル様を一瞬にして穏やかにされるなんて!すげえ!あの方はすげえ。あっという間に「猛獣使いのアル様」とあだ名もついてしまった。  それにおいらはアル様からノワール様が何かを言ってきたらまずはアル様のところに伝えに行くという役目をもらえた。アル様のお願いには応えなきゃいけない。だってあんなに領民思いの腰の低い方見たことねえもん。あの方ならおいらたちの話しは聞いてもらえると感じた。今までのお貴族様じゃねえ。  正直、サミュエル様だと護りは強くなるだろうが、おいら達一人ひとりに声をかけるなんてしなかったと思う。あのお二人なら、おいらついていってもいい。いや、ついていきたい。そう思わせる何かがある。 「へへへ。なんだか楽しみになってきたっす」
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