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6-1 ノワール
サミュエル様が卒業されたと連絡が入った。しかも公爵様よりこの辺境地を任されるという話だ。
「でかしたぞ。これで我がノワール家の天下だ!がっはっはっは!」
しかしここまでが長かった。
公爵家の側室がこの地から選ばれたとわかった時はあの手この手で謁見を願った。どうにかお近づきになって少しでも吾輩の地位をあげたかったのだ。しかしあの砦のような白亜の城にはなかなか入場を許してもらえなんだ。それだけ警戒心の強い側室だったのだろう。だが待望の男子を出産後、正室にその子をとりあげられたせいか、側室は徐々に気弱になって行った。そこに目をつけ何かと王都の流行りものや献上品を持参しやっとのことでお目通りを許されたのだ。
初めて会った側室は美しかったが褐色の肌に黒い髪の持ち主じゃった。そう、この地の先住民特有の色だったのだ。なぜ公爵様はあんな汚らしい肌の色の者を側室にしたのか吾輩には理解できなんだ。まるで奴隷のようじゃと心の奥では思っておった。
「アンジェリカは居るか?どこじゃアンジェリカ!」
側室が亡くなってからしばらくして嫡男のサミュエル様がこの地にやってきたのだ。名目上は静養ということだがあきらかに正室のイジメから逃れて来ていたに違いなかった。ここで歳の近い我が娘を気に入ってもらえればゆくゆくは娶ってもらえるかもしれぬ。いやこの際、許嫁ということにしてしまおう。幸い側室はもうこの世に居らぬ。軽い話題をふるときに娘の話もでていたはずだ。そうだそう言う事にしてしまおう。
「お父様あのこ、睨んでばかりで私に近寄ろうともしないの。遊びたくないわ」
「何を言うか!お前は将来公爵家に嫁に行くのだ。今よりもいい暮らしができるようになるのだぞ」
サミュエル様は不愛想で無口で何を考えてるかわからない子供だった。だがそんなことはどうでも良い。吾輩の爵位が上がる可能性のある未来の婿なのだから。
サミュエル様が王都に戻られると領地管理は執事と近隣の有力貴族に代理で任されると聞いた。吾輩はすぐに娘とサミュエル様が許嫁だと周りに言って聞かせた。すぐに噂となり周りの貴族を押しのけ、領地管理の筆頭となった。だが管理自体は執事のブルートに丸投げをしている。そういう細かなことはこの吾輩はしなくとも専属のものがやればいいのだ。吾輩は利益重視。王都の有力貴族と仲良くなりいずれは王都に進出するのだ。それももうすぐ!がはははは。
「しかし。まだ婿殿は挨拶に来ぬのか?もうこちらにきて四~五日は立っておろう?」
初日にアンジェリカが会いに行ったというからすぐにでも吾輩の元に来るかと待っておったのだが。当のアンジェリカは新しいドレスを発注したらしい。なんでも美しい人にふさわしく飾り立てないといけないとか言い出しているとか。まったく若い者が言う事にはついていけない。まあ公爵家になれば好きなだけ買い物などできるようになるだろう。
「ノワール様。サミュエル様から通達がまいっておりますが」
長い銀髪を腰の辺りで結んで銀縁の眼鏡をくいと上げる。切れ長の瞳で吾輩をみつめている。この男も何を考えているかがわからない。
「ブルーノか。なんて書いてあるのだ?」
「はい。領主となったので挨拶に来いと書かれております」
ブルーノに言われハッとした。そうだ、いくら義父となるからと言っても自分の今の爵位はまだ伯爵だ。悔しいが自分の方が格下なのだ。娘をやるのだから相手がやってくるのが当たり前と思い込んでいた。
「こほん。向こうから来るものだと思っておったわ」
「……すぐにでもご準備をなされた方がよろしいのでは?」
「そうだな。仕方がない。そうするか」
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