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「くっ……だ、黙れ!」 「黙るのは貴様だ!アルは俺の婚約者。お前よりも格上になるのだ」 「こ……こんなこと……って」 「ノワール伯爵。ここは丁寧に謝罪されるのが身のためでございます」 「ブルーノお前まで…………も、申し訳ございませんでした」  渋々と言った感じでノワールが頭を下げる。その隣でアンジェリカが唖然としていた。 「失礼いたしました。私めはブルーノと申します」  ブルーノは深くお辞儀をした後に真直ぐに背筋を伸ばしアルベルトを見つめる。それ以上見つめるな。アルベルトが減るではないか! 「……何?どうして?私が婚約者じゃないの?お父様どういうこと?」 「うるさいっ。帰るぞ!」 「ちょっと待ってよ!ひっぱらないで!せっかくのドレスが汚れちゃうでしょ!」 「うるさいっ!うるさい!どいつもこいつも!」  ノワールはアンジェリカを引きずり気味に退場していく。 「……今、私が仕えてる伯爵家の方々が無礼な発言を繰り返し誠に申し訳ございません」  ブルーノが目に涙を溜めてアルベルトを見つめる。 「……?どこかでお会いしましたか?」  アルベルトが不思議そうに尋ねた。 「誠に失礼とは存じますが……お尋ねしたいのですが、貴方様はひょっとしてアレーニア様のご親族では?」  はあ?……この男何を言いだすのだ! 「母さまを知っているのですか?」 「ああっ……やはり。その凛としたお顔立ちに気の強いところまでそっくりでございます」  感極まったようにブルーノが涙を流す。 「私は以前アレーニア様の従者でありました」 「え!そうだったの?母さまに従者が居たって言うのは初めて聞いたよ」  キョトンとするアルベルトは可愛いがこれ以上コイツと一緒に居たくはない。 「アル!そろそろはじめないと。さあ馬車まで行こう」 「ああ。そうだね。ブルーノさんまたね」  オレはアルベルトの肩を抱いてその場を後にした。デセルトに視線を投げかけておく。頷いてくれたからブルーノとやらのことは後で聞くことにしよう。 ◇◆◇  四頭立ての馬車に乗り、手を振りながら挨拶をする。その後ろには自警団の皆が整列をし行進をしてくれていた。街頭には農家の方たちが集まってきてくれ、皆手をふってくれている。 「サミュエル様!婚約者のアルベルト様!おめでとうございます!」  ライナスが大きな声でかけ声をかけると自警団の皆が「おめでとうございます」と返してくれる。それにつられて見物客たちも「おめでとう」と口々に祝いの言葉を投げかけてくれた。 「ふふふ。皆盛り上げてくれてるね」 「ああ。ありがたいな」 「ふええ。サミュエル様が笑われておるぞ」 「本当だ。あの方も人間だったんだな」 「何言ってるんだい!それよりも隣の方を見ろよ。本当に美しいな」 「この地を治める新しい領主様とそのご伴侶様だ!」 「王都の騎士団の支部が出来るらしいぞ」 「なんと、この辺境地にか!すげえぞ!」  近隣の貴族領地にも伝令は飛ばしていたので何箇所かで馬車を止め挨拶を交わすことも忘れなかった。やはり王都からの騎士団派遣やこれからできる支部への関心が高いようだった。
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