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◇◆◇  朝から出て行った切りアルベルトが帰ってこない。くそ。やはり護衛をつけておくべきだった。近隣の田畑の見回りだけだと言っていたから気を許していた。だがよく考えたら領主の伴侶だ。囮にしようと隣国が誘拐にくるかもしれないし、俺の事をよく思わないものに狙われるかもしれない。いや、あの美貌だ。アルベルトに懸想をしたものからも守らなくてはいけなかった! 「サミュエル様。アルベルト様がお戻りですが……」  デセルトの物言いに不安を感じた俺はその先を急がせた。 「何!アルがどうしたのだ!」 「ずぶぬれでお戻りになられまし……」 「アル!アルベルト!」  何故だ?今日は天気はよかったはずだ。雨など降ってなかったではないか!何があったのだ?玄関まで駆けだしてアルベルトの姿をみつける。 「サム。遅くなってごめんよ」  そこには全身水浸しになったアルベルトとライナス。そしてアルベルトに抱えられている男がひとり。 「なんだ……なぜ?」  きっと今の俺は最悪な顔つきになっているだろう。 「えっと、ちょっと遠出をして森まで行ってみたんだ。そしたら温泉があってさ」 「あ、あの。アル様は悪くないですだ。おいらがあったかい池までお連れしたんですだ」 「ライナスは悪くない。それよりそこでケガ人をみつけて連れて帰ったんだ。ここで治療をしてあげて!」 「…………」 「ではけが人は私めが奥に運んで治療をしましょう」  デセルトがアルベルトから男を受け取り連れて行こうとする。 「待て。……なぜここにいる?」 「新領主がここを統治すると聞いたのでな」 「…………ノワール家の話は聞いているのか?」 「おおよそのことは想像ができる」 「…………あとで話をさせろ」 「そのつもりで参ったのじゃ」 「サム?顔見知りだったの?」 「アル。俺はお前を甘やかしすぎたのか?」 「へ?えっと……怒ってる?」 「当たり前だろう!森などと。何かあったらどうする!こんなに冷えた体で帰ってきて!お前に何かあったら俺は……。俺は……」 「ごめんなさい。サム」  しゅんと項垂れる顔が可愛すぎる。折れそうなほど細い腰を抱きしめた。 「心配させないでくれっ。一人で出かけて消えてしまわないでくれ!」 「サム。ごめん。僕が軽率だった。今度から護衛をつけてもらうよ」  俺が言うよりも先に自分から言ってくれた。ああ。気づいてくれたのか。 「……そうしてくれ」 「うん。……僕も、もしサムが同じことをしたら怒るなあって今思った」  苦笑するアルベルトが堪らなく愛おしい。頬に目じりにとキスを降らすとへっくしょんと隣からくしゃみが聞こえた。 「わあごめんよ。ライナスもお風呂に入って。サム、着替えを用意してあげて」 「ふぇい。しゅびません。鼻水がでてきまして……」 「わかった。すぐに湯を用意しよう。今日はここに泊まるがいい」 「ふぇえ?お城に?おいらがですか?」 「ふふ。たまにはいいんじゃない?」 「あ、ありがてええ!」 「アルもだ。侍従を呼ぶから風呂にはいって着替えておいで」 「うん。そうする。夕飯はライナスも一緒でいいよね?」 「ええ?ご、ごちそうまで食べさせてくれるんですかい?」 「…………ライナスが気に入ったのか」 「サム。顔が怖いよ。ライナスは僕の補佐だよ」 「いつから補佐になったのだ?」 「領地経営に必要な人材だよ。ライナスだけじゃなくて、これから僕の補佐を増やすつもり」 「…………だが男ばかりは……いや、女も危ないな。人選は俺も参加して決めるぞ」 「ふふ。いいよ。一緒に決めて行こうね」
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