16-1 隠し部屋

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16-1 隠し部屋

 突然私に教育係が付いた。なんでもブルーノが貴族に嫁に出すのなら内面も淑女にならなくてはいけないと王都から呼び寄せてくれたらしい。なんで今頃?お父様は王都と名のつくものなら何でも喜んで受け入れてしまう。 「はじめまして。今日からお世話をさせていただきます」  平凡な顔立ちの女性の教育係を見てうんざりしたわ。もっと洗練された女性が来るかと思ったのに。 「どうしてそんなつまらない顔をされてるのですか?」 「うるさいわね。貴方なんかに私の気持ちが分かるものですか!私は爵位の高い高貴な方に嫁ぐことが決められていたのよ。それなのにどうして?私のような美しくて可愛い女性がどうして……」 「はい!そこまでよ!まず、どうして爵位の高い方に嫁がないといけないのですか?」 「え……だってそれはお父様が」 「そこにお嬢様の。アンジェリカ・ノワールの気持ちは?考えはあるの?」 「わ、私の考えですって?だってお父様は女は余計なことを考えるなと……」 「まあ、女性に向かって女呼ばわりするなんて!そんなの女性蔑視よ!」 「そんなの……お父様は私を道具にしか見てないのよ!どうせ私なんか誰も相手にしてくれないのよっ」 「悲劇の中心になるのはおやめなさい。相手にしてくれないなら見返してやりなさい」 「え?見返す?」 「ええそうよ。いつまでわがまま人形でいるつもりなの?」 「だって……ううう」  涙がぽろぽろこぼれた。どうして?泣いたことなんかなかったのに。 「よしよし。貴女はちゃんと叱られたことがなかったのね」  ちゃんと叱られる?お父様はいつも怒鳴ってばかり。私は怒鳴られるのが嫌で言う事を聞いていただけで。誰かにこんな風に抱きしめられたのは久しぶりだった。私を抱きしめてくれたのは幼いころにお母さまだけだった。 「うぅうう……」 「貴女はとても純粋な子よ。ただ世の中を知らないだけ。だって誰も教えてくれなかったのだから」 「……ぐす……教えてもらったら皆に好きになってもらえる?」 「ええ。私が教えてあげるわ。うふふ。私ね、一度女の子を育ててみたかったの!」  彼女はお母さまのような匂いがした。それになんとなくアルベルト様に似てる気がする。 ◇◆◇ 「何?隣国から使者が来るだと?」 「はい。朝方こっそりと通達がまいりました」  なるほど、人目につかぬようにブルーノの元に届いたのか。 「そうかそうか。では吾輩の手紙が届いたのじゃな。がははは」 「なんと送られたのですか?」 「くくく。辺境地にて反乱あり。今なら容易く攻めいることが出来ると言った内容だ」 「反乱が起きるのですか?」  ブルーノが驚いたように聞いてくる。本当に起きなくともよいのだ。ただの噂だけで皆動くのだ。噂好きな馬鹿どもばかりだからな。 「そんなものこちらから起こせばよいのだ。ちょっとそれらしく装うだけで相手はそうだと思い込むだろう。噂とはそういうものだ。がははは」 「なるほど。今までもそうやって噂を流していたのですね」 「ふん。信じる者が悪いのじゃ!」 「ノワール様。ただいま戻りましたっす」  王都に行かせたライナスが帰ってきおったか。今回は荷が多いからとマント男もついていきおった。 「おお!ライナスか!今回も品を持ち帰ったか?」 「いえ。今回は人でした。二十人ほど……」  ライナスは疲れたような顔をしてマント男に支えられていた。 「はあ?なんじゃそれは?」  見れば荷馬車に数人。他にも馬に乗った者達がついてきていた。 「とにかく。おいら今回は緊張して疲れたのでこれで帰らせてもらいます」
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