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 歓迎会に出るために騎士団に戻ると険悪な場面に出くわした。貴族騎士の一部と支部団員との間で早速いざこざが起こっているようだ。ある程度は覚悟していた。そのために僕も同行してきたのだ。 「無礼な田舎者は王都の礼儀をしらないらしい」 「確かに俺らは貴族の礼儀はわからない。だからこそ王都を知るためにここにきているのだ!」 「ふん、平民風情が……」 「どうしたのだい?」  僕が割って入ると途端に両方とも口をつぐむ。サミュエルは入り口で団長と話し込んでいる。彼が気づく前になんとかしたい。 「一つ話しておきたい。僕らが居るグリーンヘルツは王都と違って隣国との境目。言わばこの国の要と言われている。争いにも巻き込まれやすいし、自然が多いので害獣の数も多い」  くすくすとド田舎だからなと囁きあう小声が聞こえる。 「おや、緑の多い我が領土に興味がおありのようだね?血の気の多い勇敢な王都の騎士の訓練場としても計画されているんだ。立候補してくれるとありがたい。ねえ君?」  僕は一際エラそうな騎士に視線を向けた。 「ぐっ。何を言う子爵の出のくせに。サミュエル公に取り入って今の地位についたんだろうが!」 「おお!そうか。僕と練習試合をしてくれるんだね!僕は支部団員より弱いんだが、いやあありがたいな!腕がなまっていたんだよ!」  わざと僕は大きな声をあげ周りの視線を集めた。 「え?な、なにを……」  これで相手は引くに引けないだろう。剣術には少し自信がある。もちろんサミュエルのような度量はない。しかし短時間なら僕にも勝敗はあるだろう。なによりこの騎士は隙だらけだ。僕のことを見た目だけで判断して油断しまくっている。  キィンっと音を立て剣が重なり合う。二度三度打ち合いになると考えが甘かったと感じた。さすがは騎士団員。剣さばきも無駄がない。だが相手は僕がここまで出来るとは思ってなかったみたいで戸惑いが見えた。その一瞬の隙をついて僕が勝利した。 「凄い!アル様さすがです!」 「俺らのアル様はすげえ!」  支部団員達が歓声をあげた。今はその大げささが効果を生む。これで僕らが一筋縄ではいかないとわかったはずだ。 「くそ……」 「君、左肩が脱臼したことがあるんじゃないのか?」 「へ?」 「無意識に左肩を庇う戦い方をしている。だから右側に隙ができるんだ。肩の筋肉に力が入りすぎている。良い柔軟を教えてあげよう」 「は?……はい」  ついつい指導したくなる。僕の悪い癖だ。相手は僕より年上かもしれないのに。良い剣さばきだったからなおさらだ。気位が高いだけでこの団員の腕はイイ。支部団員達とも仲良くやってもらいたい。そう思って笑いかけると相手は真っ赤になって急に大人しくなってしまった。 「くくく。お前の伴侶はさすがだな」  いつの間にか団長が傍に立っていた。隣にはサミュエルが眉間に物凄いしわを寄せている。ありゃ、これって怒っている? 「…………ええ」    その後、歓迎会もそこそこに僕はサミュエルに引きずられるようにして別邸に帰る羽目になった。酔った騎士団員達が我も我もと僕に手合わせを申し出てくれたからだ。 「だめだだめだ!アルに指一本でも触れたやつは俺が斬る!」 「えっと、ごめんね。サムはちょっと酔ってるみたいで……」 「ははは。嫉妬深い旦那を持つと大変だな」  団長が苦笑しながら見送ってくれた。 「うるさいですよ!」
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