疑惑と遭遇

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それから数時間。俺の小さな違和感は徐々に大きく膨れ上がり、そして、その違和感が的中した事を知る。 「おいおい篠田ぁ、なにイチャ付いてんだよ」 「紗季達って本当に付き合ってないの? お似合いじゃん」 何も知らないクラスメイト達に持て囃されて、まんざらでもなさそうな顔をしている二人。 その位、二人の距離は近くて、傍から見てて恋人同士にしか見えない。でも、それは俺の知っている紗季と篠田じゃない。見た目は同じでも、纏ってる空気が違う。 「ねぇ、どうする? もう言っちゃう?」 「あー、まぁいいんじゃね?」 ちらりと、二人が意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見た気がして、俺は慌ててメニュー表に視線を落とした。 「実は、俺ら前から付き合ってたんだ」 あからさまなドヤ顔でそう打ち明けたのは篠田だった。 その言葉に、皆が一斉に色めき立つ。 やっぱり。……そう、だったんだ。 メニュー表を持つ手が震えた。胸の奥が、焼けるように熱い。嫌な汗が掌に滲んでじっとりとした不快感を与えてくる。 吐きそうだ。いや、いっその事、この場で吐いてしまえば楽になるかもしれない。でも、そんな事は出来ない。 俺は、震える手を抑え込むようにして、メニュー表を強く握った。 入り口近くの端に座っていてよかった。こんな所を見られたら、きっと変に思われる。 俺は、込み上げてくる不快感を抑え込むようにして、唇を噛み締めた。 それからの時間は地獄だった。部屋の中央に座っている二人はみんなの注目の的で、聞きたくもないのに二人の馴れ初めやら色々な情報が耳に入って来る。 付き合いだしたのは1年の終わりごろだった事。切っ掛けは、篠田からの告白だった事。初めてのキスは誰も居ない教室で、とか……聞くに堪えない内容が次から次へと俺の耳に飛び込んで来て、その上、篠田達の勝ち誇ったような笑みが、俺を苦しめた。 俺が紗季に告白されて付き合い始めたのは約3カ月前だったから、その間俺は二人に騙されていたことになる。 紗季と付き合う事にしたって報告を篠田はどんな気持ちで聞いていたんだろう。 俺って馬鹿だ。ホント、馬鹿すぎる。なんで二人の関係に全く気付かなかったんだろう。 まさか、信じていた友人からこんな酷い仕打ちを受けるなんて思っていなかった。 「ごめん、ちょっと用事思い出したから」 これ以上、その空間に居る事は出来なくて、ドリンクバーを注ぎに行くクラスメイトと一緒に部屋を出る。 そして、その子にそう声を掛けて俺はカラオケ店を後にした。
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