疑惑と遭遇

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「じゃあ、行こっか」 戸惑いつつも俺が一歩踏み出すと、露木君は素直に少し遅れて俺の後を付いて来た。 人混みから俺を庇うように盾みたいになってくれるから、さっきより断然歩きやすい。 やっぱり、本当は優しい人なんじゃ無いだろうか? ほんの一瞬、彼の顔がNaoと重なった気がして、俺は慌てて視線を逸らした。 近くにある小学校の前を素通りして曲がり角を曲がれば、地上45階建てのマンションの豪華な入り口が見えて来る。 警備会社の人が常駐しているエントランスを抜け、マンションの中へと入る。ICカードを翳して住人専用のエレベーターに乗っている間も、露木君は始終無言だった。 でも、いつもの怒ってるような冷たい感じじゃない。どちらかと言えば、不安そうな……そう、怖がっているようなそんな空気をひしひしと感じる。 そりゃそうか。朝まで自分が生活していた家が突然燃えたんだもんなぁ。 俺だったら、こんなに冷静ではいられないだろう。 家の中にはローズだって置いたままだし、パソコンが無くなってしまって配信が聞けなくなったりしたらきっと俺は生きていけない。 露木君はこれからどうするつもりなんだろう? チラリと、視線を上げて様子を伺ったが、冷たい眼鏡のフレームに阻まれてやっぱり彼の表情をうかがい知ることは出来なかった。 「……随分広いな。それに町がよく見える」 家に戻り、対面式のキッチンでコーヒーを淹れていると、リビングの大きな窓から景色を眺めていた露木君がポツリと呟いた。 「そりゃまぁ、45階建てのタワマンだし……。見晴らしはかなりいいと思う。俺は普通のマンションでいいって言ったんだけど」 俺の高校合格が決まったちょうどその頃、父さんが突然再婚相手を連れて来た。はっきりは言われなかったけれど、恐らく、新婚の二人には俺が邪魔だったのだろう。 せめてもの償いとでも言わんばかりにある日、高校の合格祝いだと称してマンションを契約して来て、俺に住めと言い出したのだ。 毎月使い切れないくらいの生活費と学費を貰っているし、再婚相手の女性の事はどうしても好きになれなかったから、父さんの申し出を断る理由は無くて、俺はマンションで一人暮らしをする事になったという経緯がある。 学校の皆には嫌味だと思われたくなくて伏せているし、露木君意外誰も家にあげた事はなかったから、驚かせてしまったかもしれない。
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