疑惑と遭遇

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ちょっと笑ってくれたから、打ち解けてくれたのかと思ったけど、相変わらずの塩対応。 でも、さっきよりは幾分か雰囲気は和らいだような気がするのは俺の気のせいだろうか。 「椎名。何か苦手な食べ物あるか?」 「え、いや……特にはないけど」 「そうか、ならよかった」 そう言って、露木君は手際よく料理を始めた。 包丁がまな板を叩く音。鍋がコトコトと煮える音が心地いい。 俺はその間、皿を用意したり、調味料を手渡したりと気分はまるでアシスタント。 相変わらず口数は少ないし、必要最低限の事しか言わないけど、それでも二人でキッチンに立つなんて事今まで無かったから、何だか少し楽しい。 「うん、うまい」 出来上がったのは、まさかのカルボナーラと、シーザーサラダ。 今までお店でしか食べた事が無かった味が家で再現できるなんて、感動しかない。 しかも塩加減も丁度良くて、麺もモチモチでとても美味しかった。 「露木君って料理上手いんだなぁ」 「まぁ、人並みには」 「俺、簡単な物しか出来ないから尊敬するよ。 最近は面倒だからコンビニか外食で済ませちゃうことの方が多いし」 素直にそう褒めると、対面に座っている露木君の顔が少しだけ嬉しそうに綻ぶ。 あ、露木君の口元にホクロ発見。しかも、Naoと同じ位置。マスク取った所なんて見たことが無かったから、初めて知った。 「……あまり、見ないでくれないか?」 「え、あ……ごめん」 じっと見ていたつもりは無かったけど、露木君は恥ずかしそうにマスクを付け直してしまう。 あれ? もしかして、照れてる? あの露木君が?  ほんのりと耳まで赤くしてそそくさと空になった皿を片付けに行く姿が不覚にも可愛いとか思ってしまった。 だってあの露木君だぞ? いつも無表情で何考えてんのかわかんないし、俺に対しての当たりはキツイし、ちょっと怖いなって思ってたのに。 「露木君って、可愛い所もあるんだね」 「は?」 何気なく言った言葉に、今度はいつもの氷のような視線が戻って来る。 やぶへびだったかな。少し打ち解けたと思ったのはやっぱり気のせいだったのかもしれない。
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