夢か現か

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「椎名」 「うひゃあっ!?」 突然背後から声を掛けられて思わず飛び上がる。 「そう何度も飛び上がられると、俺もさすがに傷付くんだが」 いつの間にか背後に立っていた露木君が、ちょっと不機嫌そうな顔になる。 「ご、ごめん! つ、つい動揺しちゃって」 「動揺?」 「あぁ、いや。なんでもない! で、なに?」 尋ねてみると露木君は、ちょっと言い難そうに口をもごもごとさせた後、小さく溜息を吐いてから、俺の目を見た。 眼鏡の奥の少し垂れ気味の瞳に見つめられて、ドキリとする。 「……朝飯も食ったし、一度家に戻ろうと思ってるんだ」 露木君の言葉に、俺は思わず目を瞬いた。 そう言えば、昨夜そんな事を言っていた気がする。 一人で大丈夫かな? 自分が昨日まで住んでた家。 無くなってしまった惨状を目にするのは辛いんじゃなかろうか? 俺がそう考えているのが伝わったのか、露木君が小さく苦笑するのがわかった。 あぁ、やっぱりNaoに似てる。 笑うと特にそう思える。声なんてもう、そのまんまだし。 もしかして、本当の本当に、Nao本人? 聞いてみたい、けど直接聞くのは怖い。 「あのさ、俺も一緒に行ってもいい?」 「必要ない」 「で、でも……一人で使えそうな物探し出すの大変じゃね? 二人だったら絶対に早いって。 そんで、その足で必要な物を買い揃えに行こうよ」 名案だとばかりに、鼻息を荒くする俺を見て、説得しても無駄だと思ったのか、露木君はガシガシと頭を掻いて、小さく舌打ちすると、やれやれと言った様子で首の後ろを摩る。 「わかった。お前も一緒でいい」 苦笑した声でも承諾されれば途端に晴れやかな気持ちになる。 「やった! じゃ、ちょっと支度してくる!」 相手の些細な言葉の一つ一つに一喜一憂してしまうこの気持ちってなんなんだろう。 さくっと洗い物を済ませて、俺はいそいそと部屋へと身支度を整えに部屋に戻る。 背後から「たく、お節介め」なんて何処となく嬉しそうな、そんな声が聞こえて来たけど、俺は敢えて気付かない振りをした。
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