災い転じて

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自分でもかなり現金なヤツだと思う。けど、推しを応援するのってそれだけのパワーがあるから仕方ない。 「よかった、間に合った」 俺は小さくガッツポーズをして、オープニングが流れている画面を食い入るように見つめた。 『こんばんは。 今日も配信に来てくれてありがとう』 それから間をおかずに腰に響く何処となく色香を纏う柔らかな声が、ヘッドフォンを介して俺の鼓膜を甘く揺さぶる。くっきりとした二重瞼に、目尻が少し垂れさがっているのにどこか意思の強そうな瞳。今日は風呂上りなのか髪の毛がしっとりと濡れていて、頬にかかった前髪を掻き上げる仕草に色気があふれ出て居る。なにより、右の口元のホクロがえろい。 あぁ、今日も推しがエロ過ぎてしんどい。でも、嫌いじゃない。寧ろ、大好きだ。 「はぁ~~やば、やっぱいい声」 俺は何度もその魅惑の口元を見つめながら、小さく息を吐いた。画面の向こうから性的な魅力を惜しみなく垂れ流しているNaoに目が釘付けになってしまう。 嫌味な位鼻が高くて、彫が深い。更に悔しい事にモデル並みに長身で、体格もがっしりしている。非の打ち所の無い美丈夫だ。 それでいて、このエロさ。男の俺でも、堪らなく惹かれてしまう。コレで俺と同じ高校2年生だというから、世の中は本当に不公平だと思う。 『じゃあ今日も始めようか。今日は少し趣向を変えて、お悩み相談をしてみようかな。誰か僕に悩みを聞いて貰いたい人いる?』 「はい、はい、はいはい!」 画面の向こうの彼に届くはずもないのに、思わず秒で手を上げた。配信を見てるのは恐らく女子が圧倒的に多い。だから俺を見付けてくれるなんて事は多分無い。でも、もしかしたら――。 ほんの少しの期待を込めてチャットの入力欄に書き込む。 『……んー、そうだなぁ。じゃあ今日はblueroseちゃんの相談に乗るよ』 「ふぁ!? う、うそっ!?」 まさか本当に俺が指名されるなんて思わなかった。聞き間違いか何かじゃないだろうか? とか、もしかしたら同じハンドルネームの子がいるんじゃないだろうか? と不安になって、何度も画面をスクロールして見るけれど、俺以外にblueroseなんて名前の人は見当たらない。 「マジで……?」 何度確認してみても結果は同じだ。俺を指名してくれたのは紛れもない事実で、嘘でも冗談でもないらしい。
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