災い転じて

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Naoの言葉に呼応するようにコメント欄は大荒れで、その多くは俺を気遣う声が溢れかえっている。 どうしよう。コメ欄を荒らすつもりなんて無かったのに、凄い勢いでコメントが流れてく。しかもみんな俺の事を女子だと思い込んでいるから、なんだかとても居た堪れない。 『そっか、blueroseちゃんは、とてもつらい思いをしたんだね』 「う゛っ」 そう Naoに優しく言われた瞬間、鼻の奥が熱くなって、視界が歪んだ。胸の奥底から何かがせり上がってくるのは分かったけれど、それが涙だとは気付かなかった。 『そうだな。うーん……今はただただショックでなにも考えられないかもしれないけど、大丈夫。僕は……、いつでもキミの味方だから。他の皆も言ってるように、そんな奴とは別れて正解だと思って、次に行こう。blueroseちゃんならきっとすぐに良い人が見つかると思う』 画面越しに、優しく微笑まれる。 『早く立ち直れるように、暫くは恋人設定のシチュエーションで話をしよう。僕の配信を聞いて、少しでも元気になってくれると嬉しい』 「……っ」 『だから、もう泣かないで』 Naoはいつだって優しい。心地いい低い声が耳を擽るように、脳に染み渡っていく。 いや、それよりも! あのNaoが俺の為(多分違う)にしてくれる恋人設定のシチュエーションボイスなんて、耳が幸せ以外の何物でもない。 あぁ、やっぱり俺、Naoが好きだな。 Naoは俺が男だって知らない。だから、俺はただの一リスナーとしてしか見て貰えていない。でも、それでいい。 俺はただNaoの姿を見たり聞いたりするだけで満足で、心の靄がスッキリと晴れ渡っていくような感覚を覚える。 『じゃあ今日はこの辺で終わろうかな。また来週。blueroseちゃん、今日はありがとう。またね。バイバイ』 ふつりと途絶えてしまった画面と配信終了の文字。その文字にすら愛しいと感じてしまって、俺は暫くその場から動けなかった。 「はぁ……今日も最高だったな」 配信が終わってもなお、俺の胸は高鳴ったままだった。この気持ちをどう表現したらいいのかわからないけれど、とにかく最高だった。 俺は多幸感に包まれたままベッドに横になり、ニヤニヤと締まりのない顔を掌で覆いながら独り言ちた。まだドキドキしている胸を抑えつつ、その余韻に浸る。 憧れのNaoに認識して貰えただけでも幸せなのに、相談にまで乗って貰えるなんて。幸せ過ぎやしないだろうか? 今夜はとてもじゃないけど眠れそうにない。でも、嬉しいから眠れなくてもいい気がする。 配信が始まる前の憂鬱な気分は何処へやら。俺はとても満ち足りた気分でベッドに潜り込んだ。
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