苦手な男

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「でも、これって露木君のだろ? こんなの貰えないって」 「いいよ。どうせあっても使わないから」 「でも」 戸惑う俺をよそに、露木君は小さくため息を吐いて自分の席に戻って行った。 「えぇ……」 2年間も一緒に居るのによく掴めない男だ。でも、もしかしたら、彼は自分たちが思ってるような人じゃないのかもしれない。 と言うか、露木君もカラオケ行くと言う事が意外だった。彼は一体、どんな歌を歌うんだろう?  そう言えば、露木君もNaoみたいに声が低いし、歌ったらきっと素敵なんじゃないだろうか。 そうだ! カラオケにはクラスの皆を誘うって言ってたし、露木君も誘ってみたらどうだろう? 「あ、あのさ……露木君も一緒にカ」 「嫌だ。行かない」 「そ、そう」 即答。しかも食い気味。取り付く島もないとは、まさにこの事。わかってはいたけれど、あまり食い気味に断られるのも結構傷つく。 露木君は俺の返事など興味ないかのように、引き出しから分厚い本を取り出すと、再び本に視線を落とした。 まぁ、行きたくないって言うのを無理やり誘うのもあれだし、仕方がないか。 それにしても、なんで優待券なんて持ち歩いているんだろう? 彼についての謎はますます深まるばかりだ。 貰ったチケットを財布に仕舞おうとして、チケットから微かに香ってくるバラみたいな匂いに気が付いた。 これ、もしかして……露木君の匂い? 香水とか付けなさそうなのに、柔軟剤か何かだろうか? なんだか落ち着く香りだ。 なんだろう。何処かで嗅いだことのあるような、懐かしいようなそんな匂い。 でも、何処で嗅いだのかが思い出せない。 直接、何の柔軟剤を使っているのか聞いてみようかとも思ったけれど、さっきみたいなつっけんどんな返され方をするような気がして止めた。 いつか、檻を見てきいてみるとしよう。 俺はチケットを財布に仕舞うと、仕方なく席に戻った。
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