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「まあな。一人だと外食が多いからさ、ついつい食べちゃうんだよ」
「そうなんだ……体には気をつけてよ」
こんな父親嫌だろうなと、情けなくなる。
俺は同情を誘うつもりも、心配をかけるつもりもないのに……。
勝手に哀愁が溢れてくる。
中学二年生の息子に体を気遣われると思わなかったので、悲しくなった。
老けてしまったことを露呈して悲しくなった俺は、急激に居心地が悪くなった。
国分寺駅に到着した時に、本能で「ちょっと寄りたいところあるから、父さん降りるからな」と言った。
「わかった。じゃあ、また来年ね。父さん、仕事頑張って」
最後の言葉がまた胸にくる。
また来年も……則宏は会ってくれるのか。
手を振って、見知らぬ街である国分寺で途中下車した。
どうして、途中下車したのだろうか。よくわからないけど、則宏との会話から、これ以上傷つきたくないという思いが先行してしまったのだろう。
国分寺駅のロータリーで立ち尽くしながら、今日のことを思い出す。
真紀子……もうお前とは、一緒になることはできないんだな……。
その時、則宏の言葉を思い出した。
『俺の父さんは、父さんだから』
『父さんも……動き出したら?』
……則宏は、俺のことを考えてくれている。
どうしようもない俺だけど、俺のことを父だと思って、未だに接してくれているんだ。
俺が止まっていたら、ずっと則宏に心配をかけてしまうことになる……。
俺の人生も、動き出さないといけない。
「あ……」
見上げると、そこには雨上がりの空。
さっきまでは淀んだ灰色の空だったのに、今は色鮮やかなオレンジ色をしている。
どうして気がつかなかったんだろう。
夕方の空に、俺は自由を想った。
このオレンジ色の空さえも、今なら自由に飛べそうな気がする。
これは、俺の人生だから。
やっぱり、島原に良い人でも紹介してもらおうかな……。
少しだけ前向きな気持ちになった俺は、国分寺で一杯だけ飲んで帰ることにした。
〈了〉
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