オレンジで自由な空を飛ぶ

10/10
前へ
/10ページ
次へ
「まあな。一人だと外食が多いからさ、ついつい食べちゃうんだよ」 「そうなんだ……体には気をつけてよ」  こんな父親嫌だろうなと、情けなくなる。  俺は同情を誘うつもりも、心配をかけるつもりもないのに……。  勝手に哀愁が溢れてくる。  中学二年生の息子に体を気遣われると思わなかったので、悲しくなった。  老けてしまったことを露呈して悲しくなった俺は、急激に居心地が悪くなった。  国分寺駅に到着した時に、本能で「ちょっと寄りたいところあるから、父さん降りるからな」と言った。 「わかった。じゃあ、また来年ね。父さん、仕事頑張って」  最後の言葉がまた胸にくる。  また来年も……則宏は会ってくれるのか。  手を振って、見知らぬ街である国分寺で途中下車した。  どうして、途中下車したのだろうか。よくわからないけど、則宏との会話から、これ以上傷つきたくないという思いが先行してしまったのだろう。  国分寺駅のロータリーで立ち尽くしながら、今日のことを思い出す。  真紀子……もうお前とは、一緒になることはできないんだな……。  その時、則宏の言葉を思い出した。 『俺の父さんは、父さんだから』 『父さんも……動き出したら?』  ……則宏は、俺のことを考えてくれている。  どうしようもない俺だけど、俺のことを父だと思って、未だに接してくれているんだ。  俺が止まっていたら、ずっと則宏に心配をかけてしまうことになる……。  俺の人生も、動き出さないといけない。 「あ……」  見上げると、そこには雨上がりの空。  さっきまでは淀んだ灰色の空だったのに、今は色鮮やかなオレンジ色をしている。  どうして気がつかなかったんだろう。  夕方の空に、俺は自由を想った。  このオレンジ色の空さえも、今なら自由に飛べそうな気がする。  これは、俺の人生だから。  やっぱり、島原に良い人でも紹介してもらおうかな……。  少しだけ前向きな気持ちになった俺は、国分寺で一杯だけ飲んで帰ることにした。 〈了〉
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加