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「岩関さん、僕が良い人紹介しましょうか?」
ついこの前違う部署から異動してきた部下の島原と、二人で商談に向かっている。
駅から取引先の会社に向かっている最中に、唐突にそう言われた。
「ああ、すまんな。気持ちは嬉しいんだけど、遠慮しておくよ」
「そうですか……いつでも言ってくださいね! 知り合いにたくさんいるんです、部長くらいの年代の、出会いを求めている女性が」
島原は俺よりもちょうど十個年下って言っていたから……今年で三十歳になるのか。
爽やかで清潔感もあって、女性社員からも人気な島原にそんなこと言われたら、ちょっと期待してしまう。
……でも、俺はきっぱり断った。
それには……理由がある。
「岩関さん、もったいないと思うんですよね」
「ん? そうか?」
「はい。優しくてカッコイイし、それに賢いじゃないですか。見た目も中身も、まさにパーフェクトって感じがします」
「そんなに言っても、何も出ないぞ」
「いいや、本気で言ってますから。絶対モテると思うのに……再婚はしないんですか?」
うーん、再婚ね……。
真紀子と離婚してから、もう三年になるだろうか。
息子の則宏が今年で中学二年生になったから、間違いない。
ちょうど三年だ。
三年という月日が経っても、気持ちは未だに整理がついていない。
あの日……あの時、真紀子から「離婚しましょう」と告げられた時から、俺の時計は止まったままだ。
こんな状態で、今さら新しい恋なんかできっこない。
俺は島原に「まだ、再婚は考えられないかな」とそっけなく答えた。
――俺が家庭を顧みなかった。
簡単に言うと、それが離婚の原因だ。
俺は俺なりに、結婚生活は順風満帆だと思っていた。
でも、それは俺の都合のいい解釈だった。
別れる日に真紀子から「食卓を囲めば良い家族っていうわけじゃない」と、冷たい目で言われたのを覚えている。
当時、仕事に精を出していた俺は、真紀子からしたら『中途半端な夫』だったみたいだ……。
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