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「最近学校はどうだ? 順調か?」
「……まあ、特に変わらずだよ」
「変わらずって言ったって……あ、サッカーはどうだ?」
「うん、サッカーまだ続けてる。二年生からレギュラーになったんだ」
「本当か? それは凄いなぁ。父さん、初めて則宏がスタメンで出るってなった試合、すっぽかしたことあったよな? あれ、死ぬほど母さんに怒られたなぁ」
苦笑いを浮かべて、息を切らさずに話しながらゆっくり歩いていく。
則宏は何も反応してくれない。
肉付きが全くない則宏のシャープな頬に、一筋の汗が流れている。
頬にある思春期特有の赤ニキビは、中学生の時俺にもあった。
口数の少ない則宏に困りつつも、思春期の真っ最中を生きているんだという安心感を抱いた。
その過程を、これからも見ていきたい。できれば、ずっと見守っていきたい……。
口には出せないけど、たった一人の息子のことが、愛おしくなる。
「則宏、お腹空かないか?」
大体中腹まで来ただろうか。
道脇に咲いているスミレの花を横目に、ところどころ話しながら歩いたら、ここまであっという間だ。
則宏にお腹が空いたかを確認したけど、実際は俺自身が空いていたのだった。
それを見透かしているかのように、則宏が「父さん空いたでしょ?」と聞いてきた。
「ああ、朝から何も食べてなくてな」
「別に食べてもいいよ。ちょうどあそこに食べるところありそうだし」
則宏の方がよっぽど大人なんじゃないかと、父親の威厳がなくなったことに笑いたくなる。
俺は「じゃあ寄っていこう」と、休憩施設を指差した。
「蕎麦でいいよな?」
お茶屋さんや和菓子屋さんもあったけど、その中でも人気な蕎麦屋をチョイスする。
則宏が「お腹が満たされそうなのは蕎麦かな」と、冷静な口調で返答してきた。
感情の起伏を感じられない則宏に困惑しつつも、「そうだよな」と落ち着いているように見せて蕎麦屋に入った。
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