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「何でも好きなの食べろよ? 則宏、体細いからな。いっぱい食べろ」
「……じゃあ、これ」
則宏が指差したメニューはかけ蕎麦だった。
他にも天ぷら蕎麦やとろろ蕎麦等がいっぱいあるのに、一番安いノーマルなものだ。
さすがに「それだけじゃ足りないだろ」と目を細めると、「あと……」と何かを付け足そうとした。
「あと、これも」
特別丼セットの中から、カレー丼をチョイスする。遠慮がなくなったことにホッとして、「じゃあ俺もそれにしよう」とにこやかに手を挙げた。
店員に同じセットを二つ注文する。
「カレーといえば、母さんが作ってくれたカレー、美味しかったな」
離婚の話が出た日も、夕ご飯はカレーライスだった……懐かしむように話すと、則宏は返す言葉に困りながらも、「今も時々作ってくれるよ」とだけ言った。
食べながら、頭で真紀子のことを考えるようになる。
実は今日、則宏に聞こうとしていたことがあった。
それは……真紀子の現状についてだ。
もし真紀子が、則宏に少しでも結婚していた時の話を楽しそうにしていたとしたら、俺は真紀子に、もう一度やり直すようにお願いしてみると心に決めていたのだ。
だから、真紀子の話を、則宏の口からもっと聞きたかった。
「母さんはどうだ? 楽しそうか?」
「……別に、普通だよ」
「そうか。何か変わったことはあるか?」
則宏は水をひと口飲んで、首を捻った。
思春期真っ盛りの則宏に聞く話ではないか……違う話に切り替えることにしよう。
「父さんはな、今年部長になったんだ。まあ部長といっても肩書だけで、やる仕事は変わらないんだけどな」
「……そうなんだ」
「ははは……」
昨年と比べても、無口具合に拍車がかかっている。
則宏、もう俺と会うの、嫌になったのかな……。
真紀子の話をしても無反応だし、俺の話にも興味がなさそうだ。
急激に渇いた喉を潤すように、コップの中の水を一気に飲み干す。
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