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その後、僅か三分ほどで二人分のセットが運ばれてきた。
カレーライスとは違った軽やかさを感じるカレー丼。和の香りが漂う、蕎麦屋の出汁の風味を感じさせるサラサラのルーが、ホカホカ白ご飯にかかっていた。
それを一口食べた後、カレー丼の感想よりも、真紀子が作ってくれたカレーライスの話が口から出ていた。
「真紀子のカレー、久しぶりに食べたいなぁ……」
思わず、心の声が漏れてしまった。
則宏は特に反応しない。
しまった、またやってしまった。
則宏を困らせてしまったと即座に反省し、それからはしばらく無言で食べ進めることになった……。
最初のひと口目以降、味が感じられない。
真紀子の話を出してしまってから、空気が変になってしまった。
余計なことは言わないでおこうと無言になって食べていたら、則宏の方から話し出してくれた。
「母さん、今でも父さんの話してるよ」
「……え、本当か!?」
突然の言葉に、米粒が口から飛び出そうになる。
手で口元を押さえて「どんな話だ?」と聞いた。
「あの頃は私も悪かった……とか、今でも父さんには感謝してる……とか」
胸が熱くなっていく。
真紀子、今でも俺のことを、忘れていないんだ……。
「そうか、それは……嬉しいな」
真紀子と出会った当時のことを思い出す。
俺のひとめぼれだった。
取引先の受付だった真紀子に目を奪われ、恋をした。
まだ若かった俺は、一直線にアピールするしかなかった。
年齢も一緒だと知り意気投合してからは、話が早い。
とんとん拍子に付き合うことになり、そして結婚まで。
結婚生活二年目に則宏を授かり、そこから五年間くらいは楽しく過ごしていたっけな。
徐々に俺と真紀子の間に歪みが生まれて、そして離婚することに。
……離婚して三年経った今思い出すのは、真紀子と出会った日のことだ。
結婚生活に慣れが生じてしまった結果、離婚という形になったけど……でも今は、出会った頃の純粋な恋心を思い出している。
もしかしたら真紀子も、ほとぼりが冷めて、今は俺のことを想ってくれているのかもしれない。
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