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そんなこと聞かれるとは思わなかったので、体が固まってしまう。
堪らず「え?」と聞き返してしまった。
まさか則宏がそんなことを聞いてくるなんて、イメージもしなかった。
返す言葉に困って固まっていると、則宏が短く「何となく気になって」と俯きながら言った。
俺に興味を持ってくれるなんて……という嬉しさがこみ上がってくる。
俺は「どうだろうな」と渋めに返した。
すると、則宏が何かと葛藤するかのように唇を噛みしめる。
それに気がつくと、同時に則宏が顔を上げた。
パッと目が合う。
目を泳がせている則宏に「どうした」と問うと、則宏は話しづらそうにしながら口を開いた。
「実は……母さん、再婚するんだ」
……再婚? 目の前で大量のフラッシュを浴びたかのように、意識が飛びそうになる。
それでもショックを受けているのを感じてほしくないというプライドが現れ、俺は「へぇー」と発しながら何度も首をコクコクと頷かせた。
いくら中学二年生とはいえ、その精神的ダメージには気がつくのであろう。
強がっている俺を気にして、「まだ確定じゃないけどね」と小さく言った。
きっと、もう確定なんだろう……さすがに察することができた。
まさか、真紀子が新しい恋をしているとは思いもよらなかった。
時間が止まっているのは俺だけじゃないと、勝手に思い込んでいた。
でも、そんなことはなかった。
今日一日を思い返してみると、俺がする真紀子の質問を、則宏は大抵を苦笑いで返していただろう。
今日、則宏に真紀子の現在の様子を聞いて、寂しくなっている真紀子だったとしたら……アプローチしようとしていたのに。
全てが吹き飛んだ。
真紀子は進んでいたのだ。
いくら俺が自分を見つめ返して、昔のダメだった自分から脱却できたとしても、真紀子の心が新しい方へ向かっているならどうすることもできない。
「母さん、幸せそうか?」
俺の問いに則宏は「うん」と頷き、俺は「そうか……なら良かった」と心からは思っていない言葉を漏らした。
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