入眠の章

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 ハーブティーを意識して飲んだのははじめてだった。カモミールというその種類は思ったほど癖が強くなく、はじめての僕でも飲みやすかった。  お風呂上りで湯冷めする前にこうして温かい飲み物を飲んだためか、それとも気疲れしていたのか、僕は九時過ぎだったというのに二人に「先に寝るから」と言って部屋に入ってしまった。  いつもなら――それが仕事があってもなくても――日付が変わってから寝ていたのに、今日はどうしたのだろう。  僕は眠気と戦うようにスマホを触って明日の七時に目覚ましをかけた。 「寝るぞ……」  羊を数えるより先に寝てしまいそうだ、と思って布団に入った瞬間、トントン、とノックされた。 「なにか?」  起き上がるのも億劫な僕は、なんとか声を張って答えた。するとドアが少し開いて二人の顔がのぞいた。 「真広お兄さん、一緒に寝たいです」 「ボクも」  僕は「え?」と目をしばたいた。その瞬間にも寝てしまいそうになりながら「二人は中学生なんだし、自分の部屋で寝なさい」と言った。 「僕はもう寝たいんだ」  僕がそう言っても、二人は僕の部屋に入ってきた。 「お願いします」  すずかがしおらしくお願いする。そしてすぐるまで「今日だけ」と引かない。  僕は(中学生なら一人で寝られるだろ?)と思ったけれど、まぶたも口も重たくなっていて、仕方なく「今日だけだぞ」と布団をめくった。  二人は「ありがとう!」と言って僕の左右に入り込んだ。 (あ……壁際に行けない……しかも布団を頭までかぶれないし)と思ったし、もしかしたら眠気も吹き飛んじゃうんじゃないかと思ったが、杞憂だった。 「電気、消しますね」  すずかがリモコンで部屋の電気を消した。 「おやすみなさい」  すぐるの声を最後に、僕の意識は深く沈んだ。
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