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都内某所のオフィスビル。そこの十四階にあるフロアが僕の仕事場。
詳細は伏せるけれど、チームで企画するプロジェクトの骨組みや手回しが僕の仕事の中心。リーダーとメンバーの中継ぎもするし、別のチームとの仲介もするから、結構忙しい。外部との電話連絡も多いから、お昼休憩まで席を離れることもできない。
「姫路さん、この書類共有に回して置いてくれる」
「はい」
僕は指示通りにパソコンの共有ファイルを開く。
「姫路さん、今度の会議用資料の件は?」
「それはもう終わっています」
視線をパソコンの画面から離さないまま、クリアファイルを後輩に渡す。資料の共有を終えると、そのままメールフォルダをチェックする。書き終えた企画書も別の共有フォルダーに移動。電話が鳴ればツーコールまでに出る。そして電話の内容――先方からの約束時間の変更をリーダーに伝える――。
「姫路さん」
「なんでしょう」
パソコンのキーボードを打ち込みながら、声をかけてきた人をちらりと横目で伺う。今年の異動でチームに入った同期の女性だった。
「あの……」
「なにか?」
「お昼ですが……」
「先にどうぞ」
「じゃなくて」
僕はようやく「あっ」と気づいて、うで時計を確認した。十二時ニ十分をさしている。女性が申し訳なさそうに「今日、早退でしたよね。約束の時間に間に合いますか?」と僕の方を見ていた。
――そうだ、今日は早退して行かなければならない場所がある。
「ありがとうございます、うっかり忘れるところでした」
「それなら声をかけてよかったです」
同期の彼女は安心したようにほほ笑むと、後輩らしい女性と伴ってランチに行ってしまった。僕は小さくため息をつくと、オフィス内の飲食スペースで愛妻弁当を食べているチームリーダーに声をかけた。
「すいません、早退します」
「そうだったな。ゆっくり休めよ」
「ありがとうございます」
休めるかよ、と心の中で悪態をつきながら会釈をする。デスクを簡単に片づけてカバンを持った。
「お先に」
――オフィスのメンバーより先に帰るなんて、いついらいだろう。
僕は思わずクスっと笑ってしまった。エレベーターのボタンを押すと、待つ間にネクタイを少しだけゆるめた。
(でも、笑ってはいられないぞ)
すぐに笑みを消してエレベーターに乗り込む。
なぜならこれから、僕は初対面の同居人と会うのだから。
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