8人が本棚に入れています
本棚に追加
「真広お兄さん」
ゆっくり目を開くと、目をかがやかせているすずかのすがたが視界に入った。
「あ……僕、寝てた?」
「そんなに寝てないですよ? ほら」
すずかが指す壁の時計を見れば、確かに二時半前。せいぜい三十分ぐらいしか寝ていないことになる。
「悪い……それよりどっか行く?」
僕がたずねると、すずかが首をかしげて「どっか、とは?」と尋ね返した。
「どこでも。欲しいものとか必要なものがあれば買うよ」
するとすずかが目をかがやかせて「本屋に行きたいです!」と言い出した。すぐるも目を大きく開いてうんうん、とうなずく。
僕は「本屋か……」と困ったように頭をかいた。
「まあ、子どもは読書するべきか。電子書籍じゃ目も悪くなるもんな」と僕はなんとか自分に言い聞かせて立ち上がった。
「真広お兄さんは本が嫌いなんですか?」
すずかが靴を履きながらたずねるから、僕は「そうじゃないよ」と反射的に答えた。
「別に、読書はキライじゃないんだ……」
すずかは僕のその歯切れの悪さが気になったのか「じゃあなぜ本屋に行くのが嫌そうなんですか?」とストレートにたずねる。
「まあ、ね」
僕はわざと濁しながら家の鍵を閉めた。
「近くに本屋があるけど、バスで二駅のところにもっと大きい書店があるから、そっちにしようか」
「大きい書店! うれしいです」
すずかは疑問も忘れたように笑顔を見せた。その後ろを歩くすぐるはまだ僕に対して疑問を抱いている様子。
「一人一冊。勉強用とは別に欲しい本を買ってあげる。マンガでも良いよ。勉強用なら三冊ぐらい買っても良いけど、二人で一緒に使ってね」
僕がそう言うと、二人ははしゃいだ。
「やったね、すーくん。欲しかった新刊が買えるよ!」
「そうだね、すーちゃん」
二人は顔を見合わせてうなずく。そういう姿を見ていると、兄弟のいかなかった僕にはうらやましく思えた。
最初のコメントを投稿しよう!