入眠の章

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「真広お兄さん」  ゆっくり目を開くと、目をかがやかせているすずかのすがたが視界に入った。 「あ……僕、寝てた?」 「そんなに寝てないですよ? ほら」  すずかが指す壁の時計を見れば、確かに二時半前。せいぜい三十分ぐらいしか寝ていないことになる。 「悪い……それよりどっか行く?」  僕がたずねると、すずかが首をかしげて「どっか、とは?」と尋ね返した。 「どこでも。欲しいものとか必要なものがあれば買うよ」  するとすずかが目をかがやかせて「本屋に行きたいです!」と言い出した。すぐるも目を大きく開いてうんうん、とうなずく。  僕は「本屋か……」と困ったように頭をかいた。 「まあ、子どもは読書するべきか。電子書籍じゃ目も悪くなるもんな」と僕はなんとか自分に言い聞かせて立ち上がった。 「真広お兄さんは本が嫌いなんですか?」  すずかが靴を履きながらたずねるから、僕は「そうじゃないよ」と反射的に答えた。 「別に、読書はキライじゃないんだ……」  すずかは僕のその歯切れの悪さが気になったのか「じゃあなぜ本屋に行くのが嫌そうなんですか?」とストレートにたずねる。 「まあ、ね」  僕はわざと濁しながら家の鍵を閉めた。 「近くに本屋があるけど、バスで二駅のところにもっと大きい書店があるから、そっちにしようか」 「大きい書店! うれしいです」  すずかは疑問も忘れたように笑顔を見せた。その後ろを歩くすぐるはまだ僕に対して疑問を抱いている様子。 「一人一冊。勉強用とは別に欲しい本を買ってあげる。マンガでも良いよ。勉強用なら三冊ぐらい買っても良いけど、二人で一緒に使ってね」  僕がそう言うと、二人ははしゃいだ。 「やったね、すーくん。欲しかった新刊が買えるよ!」 「そうだね、すーちゃん」  二人は顔を見合わせてうなずく。そういう姿を見ていると、兄弟のいかなかった僕にはうらやましく思えた。
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