入眠の章

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「この本が欲しかったんです」 「買えてよかった……」  すずかとすぐるはそれぞれ一冊ずつ、立派な装丁の本を抱いていた。タイトルも本文も英語で書かれた、童話シリーズの新刊上下本。 「二人とも、英語読めるんだ。すごいな」 「童話ぐらいの簡単な本なら読めます!」 「読めない単語は辞書で調べるし」  二人は朗らかに微笑みあっている。僕は感心したように「大事なら落とすなよ」と言って、スマホの時間表示とバスの時刻表とを交互に見た。 「あと五分ぐらいでくるみたいだな。……学校は来週の月曜日から。僕はこの土日、予定を入れてないけど、なんかしたいこととかある?」  すずかの方に視線を向けると、気づいたすずかが「いいえ! 本を読んで過ごしたいです」と答えた。隣のすぐるもこくん、とうなずいている。 「別に、行きたいところがあればどこでも連れて行っていいんだけど。それこそ図書館とか行きたいんじゃないか?」  僕の誘いにすぐるが反応を示した。けれどすずかが「いいえ。学校の準備もあるので、家にいたいです」と答えたため、すぐるはあわてて「ボクも」と答えた。 「そう。まあ、気が変わったら言って」  すると遠くからバスのライトが淡く光って近づいてくるのが見えた。 「とりあえず今日は帰ってからピザを頼むから。二人の好きなピザは?」  二人は躊躇なく「テリヤキ!」と答えた。
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