入眠の章

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 普段、一人の時は食事にあまりこだわらない。昼はコンビニのおにぎりとサラダ。夜は会社近くの駅前にある弁当屋で買ってくる日替わり弁当。  ピザを頼むのはすごく仲の良い唯一無二の友人を家に招くときだけ。当然、一人でピザを頼むことはない。別に注文に戸惑うことはないけれど、親友以外とわいわいピザを食べるのはずいぶん久しぶり――いや、はじめてのことで、なんだか不思議な気分だった。 「テリヤキ、おいしいです!」 「あ、コーン落ちた……」  二人は口の周りをベタベタにさせてピザを頬張る。大きな口でピザを食べて、サイダーを飲む。フライドポテトをつまんで、またピザ。飢えていたわけでもないだろうが、実に見ごたえのある食べっぷりに、僕はすっかりお腹がいっぱいになってしまった。二人が手を付けないシーザーサラダをつまみながら、思わず二人を見つめてしまう。 「真広お兄さんはもう食べないのですか?」 「ポテト、最後のあげる?」  すずかとすぐるが僕の視線に気づいて、それぞれ手に持っていたピザの食べかけとポテトを一本ずつ差し出した。僕は「うん、もうお腹いっぱいだ」と笑いながらアイスティーを飲む。 「お風呂とシャワー、どっちが良い?」  僕が壁の時計を見ながら聞くと、すずかが「お風呂が良いです」と答えた。そしてすぐるが「それから、ハーブティー」と続ける。 「ああ、寝る前に飲むようだったんだ」  僕はそう言ってオープンキッチンの上に置かれた小さな箱を指さした。  二人と本屋の最寄りのバス停に着き、本屋に向かって歩いていた時に、小さなお店でハーブティーを売っているのを二人が見つけた。そしてすずかが僕にたずねた。 「真広お兄さん、お家にハーブティーはありますか?」  僕は首を横に振った。 「水かコーヒーしかない。……そうか、二人はお茶を飲むのかな?」 「お茶も飲みます。でも、ハーブティーも飲みたいです」 「ハーブティーはペットボトルで売ってないだろうな……じゃあティーバッグのを買おうか。――僕は詳しくないから、二人が好きな味で選びな」  そう言ってすずかとすぐるはこそこそ相談してカモミールを選んだ。 「どんな味がするんだろうな」  僕がそう言うと、二人は「おいしいですよ」と笑っていた……。 「じゃあ、お風呂から上がったらお湯を沸かそう」 「はぁい!」  すずかが笑顔で答える。すぐるもうれしそうにはにかんでいた。 (この二人は、何をして親戚の家を追い出されていたんだろう)  僕は二人に微笑みながらも、その疑問だけはなかなか晴れなかった。
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