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貸し借り
物を所有するという意識が薄く
何かを貸し借りするのに
損得を真剣に考える必要がなかった頃は
誰もがのんびり
漂うように生きていた
疲れて休んでも
困ることはない
遊んでばかりいても
非難されることはない
必要なものは空から降り注ぐから
必要な分だけそれを受け取って
あとは他の人のために残しておけばよかった
だからあの頃の
透明なビニールでできた傘はよく
雨上がりの晴れた空にふわりと浮かんでいた
借りた傘や貸した傘は
ポンポンと音をたてて開き
元の持ち主を目指して
一斉に空に舞い上がり飛んでいく
戸口から戸口へ
ベランダからベランダへ
美しいアーチを描いて移動したものだった
いつからか
少しでも得をしたい人が増えて
借りた傘は返されず
誰もが損することを嫌がって
用心深く疑り深くなり
自分のものだと決めた傘は
強く握りしめて手放さなくなった
いまはもう
傘を貸す人もいなくなり
空に舞い上がるのは
台風の時期の
使い物にならない壊れた傘だけだ
鍵をかけた家の中には
他人から奪ってきた傘や
名札をつけて所有権を主張した傘が
増え続け
傘は自由に飛べなくなったので
わたしたちはずいぶん前から
雨上がりの虹を見ていない
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