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部屋の窓に朝日が差し込み、魔法学校生のウドは目を覚ました。
今日は最終試験の日。無事に合格すれば、晴れて魔法使いとして認められる重要な日だ。
ウドはベッドに腰掛けながら歯を食いしばった。 俺が最終試験に落ちる未来なんてありえない。クレオノラ先生、なんであんなこと言うんだよ…。
昨日の、担任教師であるクレオノラとの会話が頭から離れなかった。
女性教師のクレオノラ。教師になって3年目で、穏やかな性格が生徒たちから人気があった。そのクレオノラが昨日、こう言ったのだ。
「ウド、君には素晴らしい才能がある。でも、今のままでは恐らく最終試験に落ちると思う」
その言葉が、心を深く傷つけた。なぜ落ちると思うのか? 尋ねても、クレオノラは何故かその理由を言わなかった。
「くそっ」と拳を握りしめた。優秀な俺が落ちるなら、他のやつらなんて絶対に受からないはずだ。
朝食を取る間も、ウドの心は落ち着かなかった。
「よし、行くか」
魔法学校に行く時間になり、家を出た。
いつも通り過ぎる小さな森に差し掛かったとき、老婆が地面にうずくまっているのを見つけた。
「ちょっと、そこの坊や、お願い…」
老婆が声を震わせる。
「この森にある『金色の薬草』を…探してくれないかい?」
「金色の薬草? 何それ? 何で俺が? ていうか、いきなり何なの?」
ウドは尋ねた。すると、老婆は説明を始めた。
「金色の薬草は、どんなケガでもすぐに治してしまう奇跡の薬なんだ。山菜を採りに来たんだけど...さっき転んでしまって、足が痛くて歩けなくなってしまったんだ。きっと、金色の薬草を塗れば、治るはずなんだよ」
「悪いけど、急いでるんだ」
「お願い! 見捨てないでおくれよ! 誰かが来るのをずっと待っていたんだから」
しかし、ウドは「ああ、そう。大変だね」 と冷たく言い放った。
老婆は、「お礼をするよ。沢山ね」とため息をついて、古びた小さなカバンから袋を取り出した。それから、ウドに袋の中を見せる。袋の中には沢山の金貨が入っていた。 ウドの目が輝いた。
老婆はウドに無言のまま金貨が入った袋を手渡した。
「しょうがないな。ちゃんと、ここで待ってろよ」
金貨をもらって大喜びしながら、ウドは上機嫌で森の奥へ進んだ。
まったく! 試験に行かなきゃならないのに。そう思いつつも、老婆の困った顔が頭から離れなかった。
ウドは、どんどん森の奥深くへと分け入っていった。木々が生い茂り、日差しはほとんど地面に届かない。
目を凝らし、金色の薬草を探し続けた。 突然、茂みから巨大なヘビのような魔物が飛び出してきた。
「くそっ!」
ウドは咄嗟に杖を構えた。
「くらえ!」
光の玉が魔物を直撃して、魔物は灰となって消えた。
「はぁ…はぁ…」ウドは息を整えて、「こんなところに魔物がいるのは当然だよな…」と呟いた。
金色の薬草を探し続けるウド。時折現れる魔物を、これまでに習得した様々な魔法で倒しながら進んでいく。
1時間が過ぎ、2時間が過ぎ、それでも金色の薬草は見つからない。ウドの額には汗が滲む。
3時間が過ぎたとき、ウドは金色に輝く植物が生えているのを発見した。
ウドは慎重に近づき、「これだ! 間違いない!」と叫んだ。 興奮しながら、金色の薬草を手に取る。
「ばあさんのために…見つけられてよかった。早く届けなきゃ」
老婆のもとへ急ぐウド。その顔には、達成感が満ちていた。
「ばあさん! 見つけたぞ!」
ウドが戻って来ると老婆は「ありがとう…本当にありがとう…」と満面の笑みを浮かべた。
「…良かったよ」
ウドは老婆からもらった沢山の金貨のことを思い出した。
「これ、返すよ。ばあさん、あのさ。困ってる人を助けるのに、こういうの受け取るっていうのは、何ていうか…気分が悪いものだから」
ポケットに入れていた袋を差し出す。すると、ウドの言葉が終わると同時に、金貨が入った袋は砂になり、老婆の姿が光に包まれた。
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