万華鏡

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「ただいま……」 おかえりー、と台所から妻の紘子(ひろこ)の声。娘は家を出て働いている。その弟である息子はよくわからないゲーム会社に就職したらしい。勿論家は出ている。 わかりやすくブラック企業だった。息子が正当な給料を貰えていないということがわかってから、強引に家に連れ戻した。何故か息子は反発していた。解せない。明らかに危険な状態だったところから救出してやったというのに。 俺の父親は小学生の頃に亡くなった。近所にあった校長先生の家で悪友とテレビを観ている最中に「交通事故に遭った」という連絡が来た。 病院に駆けつけたときにはもう帰らぬ人になっていた。 便宜上とは言っているが、可愛がってもらった記憶は無い。俺は母さんの連れ子だった。両親が結婚した後に生まれた弟の朝陽(あさひ)は父親から優遇されていたのを感じていた。 俺に対する母親の態度も朝陽に対するそれとは違っていた。「地主さんのところ、子どもいないから貰われないか」と言われたときには激しく拒否した。 両親は俺がいなくても寂しくないのか。とんでもない衝撃だった。何が何でも居座ってやる。意地だった。 今思えば、地主の息子になった方が大切に扱われていただろうことがわかる。裕福な環境で何不自由無く育つことが出来ただろう。 それでも俺は、家族の血にこだわった。
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