万華鏡

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俺の生物学的父親と母親は離婚していたらしい。最後に会ったのは自分が中学生だったが、姉もいた。姉は高校生で、弓道部に入っていた。 交通事故で亡くなったとは血の繋がりは無い。便宜上、気に入られる必要があったから慕ってみせたけど、やはり父親は俺を可愛がる気は無かった。 そういえば、姉とはもう何十年も会っていない。連絡先である電話番号だけは知っていた。今はもう亡くなった母親が電話帳に記しているのをこっそりメモしておいたのだ。数十年後、携帯電話──今ではガラケーというらしいが──を購入したとき、一応姉の電話番号も登録していた。 その電話番号が変わっていなければ。連絡先のデータを移したこのスマホから電話することができる。 姉の電話番号を表示する。かけてみるか。わかってもらえるだろうか。電話番号をタップするとそのまま相手にかかってしまう。どうしよう。やっぱりやめておくか──? 「おとうさーん」 「わっ」 台所よりも近い距離から聞こえる声に驚いた。電話がかかってしまった!紘子め。 「おとうさんってば!」 「ちょっと、電話掛けてるから」 不満気に顔を出したままの妻を目で追い払い、スマホの呼び出し音に耳を傾ける。呼び出し音がするということは、この番号は使えるということだ。
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