万華鏡

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「はい」 「あ、あの、わたくし」 電話、出た!でも俺、もう何十年も姉さんとは交流無いぞ? 「どちらさまですか」 正体不明だもんな、俺。でもこの冷たい言い方、姉さんだ。 「俺だよ、俺」 「オレオレ詐欺なら警察に通報しますが」 「違うって。俺!(ひとし)!藤田仁だよ姉さん!」 「ひとし……?」 何だよこの間は?忘れたとか言うなよ? 「その仁が、何の用?」 「冷たいなあ。可愛い弟が、うん十年振りに電話してんだぞ?」 「……うん十年振りの電話だけど。何?」 「ちょっと訳ありでさ。近々会えない?」 「お金なら貸さないよ?」 お金って!2時間モノのドラマか。 「そういう話じゃないって!普通に会いたいって言ってんの!」 「ふーん」 「もうちょっと興味を持ってくれよ」 「興味は無くないけど。今度の日曜日の午後なら。ていうか今どこに住んでんの」 「俺?岐阜」 「……結構遠いね。広島まで来れる?」 姉も一緒に暮らしていた頃。つまり、俺の生物学的両親が一緒に暮らしていたその場所は広島にあった。姉は今でも広島にいるから、この電話が繋がってんだな。 「俺もう大人だからな。中年のおっさん相手に何聞いてんだよ」 「そうだね」 姉の笑い声を、久しぶりに聞いた。そう、うん十年振りに。
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