万華鏡

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「俺。仁だけど。お好み焼き屋4軒あるけど、どれだよ?」 「1階のお店。すぐわかると思うけど」 「その1階に4軒連なってお好み焼き屋があるんだよ」 「そうだっけ」 て。頼むよ、広島県民。 「どこも並んでるでしょ?どれに入っても美味しいから勘で入って。その辺ふらふらしてるから席案内されたらまた電話して」 お昼どきだからか、広島名物だからか、人気店だからか。4軒ともそこそこ並んでいる。フロアマップで一番面積が大きかった店を選んでそこに紘子と並んだ。 姉さんめ……。俺に並ばせて自分はちゃっかり後から来るとか。そういえば、姉は昔からちゃっかりしているところがあった。今の今まで忘れていた。 店の回転は良かったらしい。10分程待ったあたりで俺達が呼ばれた。 「姉さん?もう案内されたよ。福ちゃんって店」 「……え?何ちゃん?」 「福ちゃん。一番面積の大きい店な」 席に案内される。「もうすぐ連れが来るので揃ってからでお願いします」と告げると、一瞬眉が動いた店員は「失礼します」と静かに下がった。 「私、広島のお好み焼き初めて食べる」紘子が頬を綻ばせて言った。そうか、嬉しいのか。 2人だけの旅行っていつ以来だろうか。子ども達が生まれる前から?娘も息子もとっくに手が離れたというのに、紘子を旅行に連れて行くという発想が丸っきり無かった。 旅先で名物に舌鼓か。いいじゃないか。全然してこなかった妻サービス、俺出来てるぞ。
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