万華鏡

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いやあ、余命半年って言われちゃったからさ。会えてない人に会ってみようかと思ったワケよ。疎遠になったとはいえ家族じゃん?俺たち。 ……なんて、言えるか‼︎余命半年の件についてはまだ紘子にも告げていないのに。紘子よりも姉に先に言うわけにもいかない。 「あ、あー……。ええと、こないだ万華鏡、見つけて、さ」 「万華鏡?」 姉が慣れた手つきで完成されたお好み焼きを切っていた。万華鏡、と口走った俺の顔を紘子は不思議そうな顔で見ていた。 「そう、万華鏡。姉さん、昔万華鏡好きだったじゃん?」 「そうだっけ?」 そうだと言ってくれ!苦し紛れの俺の言い訳、そろそろ限界か? 「まあ、好きだけど」 よし!大抵の女は万華鏡が好きだと聞いたことがある。それを教えてくれたのは誰だったか。でも多分合ってる。娘の部屋にも万華鏡が未だ存在している……気がする。 「万華鏡見て、何となく姉さんを思い出したんだよ。今なら、会おうと思えば会えるんだろうなって気付いてさ」 「ああ、まあ……」 訝しげな表情を崩さぬまま、綺麗にお好み焼きをヘラで食べ出した。俺も真似してヘラで……(すく)うの難しくないか?紘子は最初から箸で食べていた。 「……美味しい。広島焼き、初めて食べました」 「でしょ?やっぱ大阪のお好み焼きより広島焼きのが美味しいのよ」 ハフハフしながら静かに食べる紘子。広島県民らしい対抗意識のある姉。ヘラに苦戦する俺。 平和だな。この光景。
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