万華鏡

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娘と息子とも、こんな風にまた一緒に食事が出来るだろうか。半年の間に、あと一回だけでも。 俺は自分の好き勝手に生きてきた。 店員が俺を待たせたら速攻で店長を呼ばせた。食事が気に入らないと帰ってやった。大きな声を出したこともある。 やりたい放題の俺のフォローはいつも紘子がこなしてくれた。ところが。 子ども達が成人してからはそうもいかなくなった。俺の傍若無人な振る舞いが世間一般ではおかしいものだと、恥ずかしいものだと娘が紘子に諭したのだ。 それ以降、紘子が俺の尻拭いをすることは無くなった。息子に至っては冷たい視線を俺に送るだけだ。 あれが、まずかったか。 息子がコンタクトレンズを初めて装着した日。息子は目薬を間違えて点眼し、目を開けられない状態になった。 俺はあの日、飲酒していた。土日は昼間から飲むのが俺のルーティンだ。当然、車は出せない。 「救急車を呼べばいい」とだけ言い放った。税金払ってんだから当然の権利だ。 車の運転免許証を取得して1年を過ぎていた娘は俺に一言も言わずに休日診療所を電話で問い合わせ、息子と紘子を連れて夜中に病院に連れて行った。娘が車を出したのだ。 思えばこの目薬事件が境だったか。娘にも息子にも見切りをつけられたのは。俺は娘にお礼も、息子に謝罪も言わなかった。 今更言えるか。言うタイミングだって逸した。
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