配達から始まる抹殺術

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 僕はバイトをしていた。  とはいっても、普通のバイトではない。いわゆる闇バイトだ…………。内容は簡単だ、まずは駅前にある5番のコインロッカーの中に入っているブツである弁当箱を取り出し、それを持って指定された場所に持って行くものだ。何故、こんな事をしているのか、簡単だ。アパート暮らしの男子大学生の為、経費に飛んでいくため、お金がない。だから簡単に、あとは興味本位で調べてみたら、これがあった。何より魅力的なのは、免許証のコピーなどが必要ない事や、履歴書なし、一切の個人情報は求めない事だ。 ───季節は夏、昼過ぎ、そしてジリジリとしたコンクリートの地面に人集りでごった返す駅。コインロッカーに足を運び、指定された番号に俺はガチャと開き、ブツを取り出す。ちなみにカギは、前日にて依頼人と待ち合わせをし、受け取った。 「これがコインロッカーのカギだ。無くすなよ絶対に…………」  依頼人は白のスーツで隠さんばかりのがっちりした筋肉質な体格。まるで剣岳のような黒髪と鋭い眼差し、何より彼の口調からは威圧的な姿勢が滲まし、明らかに表の世界の人間ではない。 ───そして昨日の出来事はさておき。俺は閑静な団地を歩いていた。ブツは弁当箱のようなアルミ製の古い箱。重さは軽く、まるで何も入っていないような感触だ。当たり前だが、中は決して開けるな。と。 「暑いな、こんな日は抹茶のかき氷が喰いたい気分だ…………」  日差しが照りつけ、Tシャツをパタパタと首元を扇ぎ、俺は目的地を目指す。  そして、指定された場所。それは古びたアパートだった。  カンカンと、錆びた階段を登り、俺は2階の025号室の部屋にたどり着く。 「ここだな…………」  俺は部屋の郵便箱に例のアルミの箱を入れ、すぐさま走り去る。振り向かず、額から流れる汗をTシャツを濡らしながら走る。 「お、届いた。届いた…………」  アパートの025号室から出てきたのは半袖半ズボンの無精ひげを生やした中年男性。郵便箱からブツを取り出し、部屋に戻る。 ───部屋の中、中年男性はアルミ箱を眺め、言う。 「闇バイト経由で依頼して良かったぜ。何せ、この中に入っているのはクスリだなんて、知るよしもないな。さて、いつものように繁華街でバカな奴等がハイになるのが目に浮かぶ。俺は捌いてウキウキ、クスリを買う奴等もウキウキ。Win-Winだな…………」  中年男性はアルミ箱を開ける。 ───すると、開いたアルミ箱からは白い霧が発する。 「うお、…………が、これは一体?」  白い霧を吸い込み、中年男性は倒れ込んで苦しみだした。目から血、口からは吐瀉物、そして尻からは排せつ物が潮を吹く。 ───バカな奴だな、山本?  部屋に入って来たのは、白いスーツを着た男性だった。 「お…………お前は?」 「俺は北村組の松田華太(まつだかぶと)だ。てめえがこの地区にヤクを売っていると耳に入ってな。よくも舐めた真似してくれるじゃねぇか?」  山本と呼ばれる中年男性は吐瀉物を吐きながら尋ねる。 「どうやって…………俺の、取引ルートを割り出したっ?」 「簡単だ。地元の半グレを片っ端からシメて情報を聞き出し、そのヤクの取引ルートを組が掌握し、闇バイトを使って有毒ガス入りのアルミ箱を貴様の所へ配達される段取りをしたんだよ。あらかじめ、堅気の兄ちゃんには箱を開けるなと釘を刺しておいた、あとは報酬には色を出してやる予定だ…………」 「糞が、北村組め…………」  すると、松田は山本の髪を掴み、表情を凄ませる。 「北村組ではな、ヤクを捌いたてめえは死だ。選ばせてやる、魚の餌か豚の餌か?」  そして山本は、松田華太(まつだかぶと)がアパート前に駐車していたハイエースに放り込まれ、何処かに連れて行かれたのだった。  夕暮れの埠頭にて、松田華太(まつだかぶと)はタバコを咥え、一服していた。 「魚の餌か…………仁義外れにはお似合いの最期だな」  海面には、血の匂いを嗅ぎ付けた魚達がパシャパシャと跳ね、先ほどばら蒔かれたミンチに群がっている。
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