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Happy Halloween
バレンタインのお話をする前に、ちょっと前の、ハロウィンのお話を。
現世では、魔法の言葉が紡がれる。
『トリック・オア・トリート!』
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!子どもたちの元気なその声は、シェアハウスいろはでも聞くことができる。そう、今日は子どもの姿をした現代の助動師たちが、お菓子を集めて楽しむ日なのだ。
「ようちゃん、いこう!」
「うーちゃん、はしったらあぶないよ」
普段はスイカな現代の助動師、西瓜ううと西瓜よう。ふたりは、西瓜コンビ限界オタクの消量まいしプレゼンツ、かぼちゃイメージの服を身にまとっていた。ううが両手に抱えたスイカのぬいぐるみ『なつ』も、黒い布で目や口をつくり、今日はジャック・オ・スイカだ。
「かわいいよー!二人とも視線こっち!」
西瓜コンビは部屋を出て早々に、不審者に捕まった。どこから調達してきたのか、不審者は立派な一眼レフを片手に、上アングル下アングルと写真を撮りまくる。しかし、あろうことか西瓜コンビは楽しそうに笑顔を見せる。それもそのはず、この不審者こそが消量まいしなのだ。
パシャパシャ……パシャパシャ……延々続くシャッター音に、毎回せがまれるポーズ。早くお菓子を貰いに行きたいううは、5分も経たずに音をあげた。
「まいしのおねえちゃん、あたし、おかしもらいにいきたい!」
満足のいかない表情で、渋々カメラを下ろしたまいしは駄々をこねる。
「えー?まだ撮り足りないんだけど!ねぇお願い、あと10分!」
「そんなにまてないよー」
そう答えたううに、まいしはいつものようにお菓子をちらつかせて懇願する。それを西瓜コンビが目にとらえた瞬間、ふたりは口を揃えて言った。
「「トリック・オア・トリート!」」
きょとんとしたまいしは、刹那、はっと目を開ける。
「そうだった!今日ハロウィンだ……」
「おかしちょうだい、まいしねぇ」
キラキラの目でバスケットを差し出すふたりに、まいしは一度シャッターを切る。
「ちがう!おかし!」
「ごめんごめん、ふたりが可愛くてつい」
ううの怒った顔も写真に収めて、まいしはカメラから手を離し、ふたりのバスケットに飴を数個入れた。
「やったぁ!」
「ありがと、まいしねぇ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、全力で喜びを表現するううと、染まる頬をそっと隠してはにかむよう。対照的なふたりもカメラに切り取って、まいしはふたりを送り出す。
「行っておいで。後ろから着いていくけど」
「「いってきまーす!」」
ふたりのお菓子集めの旅は、まだ始まったばかり。
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