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かわいいは罠
和洋折衷なシェアハウスいろはには、ぽかぽかと暖かい陽射しが降り注ぐ縁側がある。時空の狭間の天気は、母体となっている本や石碑などの周囲の天気に多少左右されるが、基本は穏やかだ。
そんな縁側は絶好のおひるねスポット。遊び疲れた現代の助動師や日向ぼっこのついでが寝落ちしてしまった古文の助動師が、毎日のようにすやすや寝息を立てている。
「あらまぁ。らえ姉様、こんなところに」
特にやることもない昼下がり。お気に入りレシピのかき氷でも食べようかと受自可るるは氷が盛られた器を片手に衣擦れの音をさせながら縁側へ来ていた。るるが持っているのは、かき氷機でふわふわに削った氷にいちご味の乳酸菌飲料をかけて、てっぺんにいちごを飾ったいちごづくしの一品だ。そっとそれを下に置き、るるは心地よさそうに寝る女性を見る。
今日この場所を勝ち取ったのは、不眠姫と定評のある奈良の助動師、受自可らえのようだ。用法の関係でよく寝ることができないらえは、縁側で眠ろう眠ろうとしている姿をよく見かける。結局、うとうとするだけで意識が夢の世界に行くことは少ないが。
「珍しい。わたくし、姉様が寝ているところ初めて見ました」
るるは手を頬に当て、こてんと首をかしげる。そしてひらひらとらえの顔の前で手を振ってみても、反応なし。当たり前だ。目を瞑って寝ているのだから。
ほっぺたをツンツンしてみる。
「ん"〜〜……」
変な唸り声を出して顔をそむけたが、起きない。
「珍しい。そんなにここは心地よいのでしょうか」
頭をなでてみる。
「ん……」
手にすり寄ってきた。
「か、かわいいです…!」
まるで猫とじゃれているようだ。
らえの反応が気に入ったるるは、両手でさらさらとらえをなでる。命婦礼服のままくるんと丸まって眠る、なでればすり寄ってくる姿はさながら…
「アンモニャイト……」
いや、らえ姉様だから『アンモらえト』か?
「違います!らえ姉様は猫ではありませんよ!」
と自分に言い聞かせてみるものの、らえの頭をなでる、るるの手は止まらない。ふへへと笑うらえのほっぺたをまたぷにぷにすれば、嫌がるように手で払い除けられた。
「あら…」
悪戯心でその手をつんつんすると、ぎゅっと握られる。
「か、かわいい…!」
両手でるるの左手を抱え込んで、らえはまた安らかな寝息をたてる。夢中になって、るるはらえと遊んでしまった。
「……るる姉さま、かき氷が溶けてしまっています!」
「あら……」
話しかけてきたのは、るるの姉妹とも言える助動師、らるだ。コーンのアイスクリームを片手に、完全装備の和ロリでやってきた。彼女もまた、縁側でのんびり好物を楽しもうと思っていたのだが。
「…離れられなくなってしまいました……」
らるの目に入ってきたのは、左手を抱え込まれて動けず、かき氷が溶けたことを認識して少し悲しそうなるる。
「お母さまがお休みになっている姿、わたし初めて見ました!」
『らる』は『らゆ』から生まれた助動詞。らるにとって、らえは母親のような存在だ。
「わたくしったら、らえ姉様と遊ぶことに夢中になってしまって…」
るるは、わたくしのかき氷……と肩を落とす。
「お姉さま、かき氷はわたしがまた作るのでそんなに落ち込まないでください!溶けてもジュースになって美味しいではありませんか!」
「そうですけれど、食べたいではありませんか…」
るるの隣に座って励ますらるに、飲みたいのではないのですと未だしょんぼりとしている。
「いちご!いちごは残っていますよ、お姉さま!」
はっとした様子でれるはるるを見る。少し必死そうなその顔に、るるはちょっと笑って言った。
「……氷ではありませんからね。らる、半分こして食べましょう?」
「はい!」
らるはかき氷が入っていた器からいちごを持ってきた。それををきれいに半分に割り、るるの右手にのせる。
「先っちょの方が甘いらしいです!お姉さま、どうぞ!」
「らる…。ありがとうございますね」
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