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「さて、そろそろどうしましょう…」
れるがアイスクリームを食べ終わり、溶けたかき氷ジュースも二人で全て飲んだ後。だんだんと涼しく暗くなってきて、現世で夜が近づいているのがわかる。
「今日はわたしたちお風呂洗い当番です!行かないとですが…」
れるの視線の先には、ぎゅっと抱え込まれたるるの手。
「お姉さま、どうしましょう…」
「わたくしが知りたいです…」
二人して唸っていると、ぴょんと誰かが顔をのぞいてきた。
「どうしたの〜お二人さん。いわゆるthe 悩んでますって顔してるけど」
「母上様!」
「ゆる姉さま!」
にこにこと二人を見る彼女は、奈良時代の助動師、受自可ゆる。助動詞『る』の元となる助動師だ。
「どれどれ……なるほどね~。らえが離してくれないか。えいっ」
「ちょ、母上様!」
ゆるは容赦なく、るるの手をらえから引き剥がした。
「ん"〜〜〜〜」
「ゆる姉さま、お母さまが唸っています…」
「いいっていいって。この人眠りにつけないだけで一回寝たらなかなか起きないから」
へらへらと笑うゆる。ぎゅっと握っていたものを離されたらえは、居心地悪そうに手を伸ばす。
「「「あっ……」」」
次のターゲットは、るるの小袿だった。
「あらら……結局動けません」
「あちゃー、どうしようか」
「このままだと、起きるまで動けませんよ、わたしたち!」
顔を合わせる三人に、庭の方から話しかけて来た小さな影がふたつ。
「ははうえさまぁ、おばあさま、どうなさったのですかぁ?」
「おばばさまが眠っていらっしゃるところ、ぼく初めて見たかもしれません!」
縁側に首だけ出して現れたのは、現代の助動師、受自可れると受自可られるだ。
「れる、られる、どうしましょう」
「お母さまがお姉さまの小袿を離してくれないのです!」
「なんか、なんでもいいから握っていたいみたいで。この二人お風呂当番だからそろそろ行かないといけないのにね」
靴を脱いで縁側へ上がってきた、れるとられる。二人して顔を見合わせて、コソコソと内緒話を始めた。
「いいと思いますよぉ!」
「じゃあこれで!」
どうやら話がまとまったようだ。
「ふたりとも、何かいい案はありましたか?」
困り顔の三人に向かい合って、二人は声を合わせて言う。
「「小袿をかけてあげればいいのです!」」
ぽかんと三人は互いに顔を合わせて、刹那、クスクスと笑い出す。
「そうでした!その方法がありました!」
「どうして気づかなかったのでしょうかね!れるちゃん、られるちゃん、お手柄です!」
「そっか!服なら脱いで掛ければ万事解決!」
そろそろと、るるは小袿を脱いでそっとらえに掛ける。肌寒かったからちょうどよかった。
「すごいです〜〜!ふたりともすごい〜〜!」
「らるねえさま、いたいですぅ」
「おかあさま!すごいでしょう!」
れるとられるが、らるに思いっきり褒められている。れるは、わしゃわしゃと頭をなでられて、恥ずかしそうにする。対するられるは、もっともっととねだっている。
「これが、いわゆる萌ってやつ?」
ゆるは口元を押さえてぽつりと言った。そんな彼女を知ってか知らずか、るるはいちゃつく三人に近づく。
「わたくしも混ぜてくださいな」
三人まとめてぎゅっと抱きつけば、きゃあと楽しそうにられるが声をあげた。
「ははうえさまぁ、だから痛いですってぇ」
「ごめんなさい。ふたりを褒めないと、って思ってしまいまして」
るるはすぐに離れて、れるの髪をすくように頭をなでる。れるはふにゃんと笑った。
「うちのコがこんなにもかわいい……」
ゆるはとうとうしゃがみこんでしまった。
「ん"ん……」
しばらくいちゃつく四人と悶える一人と寝る一人が縁側にいる状態が続いた。強く肌寒い風が吹いたとき、もぞりとらえが動いた。
「おはよぉ。お昼にこんなに寝ちゃったの初めてだよ」
「おはようございます、お母さま!」
「おばばさま、おはようございます!」
「おはようございます、らえ姉様」
「おはよぉございますぅ、らえばあさま」
一斉におはようと挨拶する一同。きょとんとしたらえは、少し笑っていった。
「古典の二人組がいるなら、お風呂できてるか。入ってこようかな」
「「「「あっ」」」」
受自可ファミリーはツッコミ不在である。
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