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タイムカプセル
助動師たちは、シェアハウスいろはにそれぞれ部屋を持っている。それは接続で決まる…というのは一旦置いておいて、助動師の部屋は、その助動師の特徴をよく表すひとつのものさしなのだ。
ドンッ!と効果音がつきそうな仁王立ちで、ドアと対峙する3人組。4階に部屋を持つ、所断なり、定断たり、様曲やうなりだ。目の前のドアは、やうなりの部屋。ぶかぶかの白衣を今だけは脱いで、頭に三角巾を乗せたなりが言う。
「さて、最後はこの部屋である……」
水干の袂をたすきがけしてまとめたたりは、これまた頭に三角巾を乗せて真剣な顔をして言う。
「怖いね…しばらく片付けてないんでしょ、この部屋。去年以来?」
作務衣に着替えて、例に漏れず三角巾を乗せたこの部屋の主、やうなりは申し訳無さそうに言った。
「申し訳ない…」
そう。今日は年末の大掃除の日なのだ。3人でチームを組んだ動形大学組は、お互いの部屋を3人で掃除することにした、のだが。
「所断の部屋は手作り実験用具でごっちゃごちゃ。揺れまくる長さの違うふりこ、共鳴しまくるおんさ………。大変だった…」
「実験を始めるとそれどころではないのである!」
つい先程までの、なりの部屋の片付けを思い出してげっそりするたり。当の本人も自覚はあるようだが、開き直ってしまっていて手に負えない。たりは大きくため息をついて、くるりとやうなりに向かい合う。
「さて、断捨離するよ!いいね?!」
「ああ…」
気迫のすごいたりに、ぐいと詰め寄られて言われたやうなりはたじたじとなりながら頷いた。
戦へ出向く面持ちで慎重に扉を開けると、一見普通の部屋。しかしそれは人が来るこの洋室だけであり、奥の扉を開けば…。
「ワタシのところとどっこいなのである…」
そこには乱雑に置かれた書類、いつのものかわからない脱ぎ捨てられた服、ありとあらゆるものが詰め込まれていた。本来、畳の部分もフローリングの部分もあるはずだが、その境目はもう見えず、きれいに整頓された本棚が異様な空気を醸し出している。
「な~んでここだけきれいかな…」
「ふむ…私にもわからん。ただ、本棚はいじるな」
「まぁきれいだから、いじる必要ないのである。それより…」
本来眠るためのベッドが書類に埋もれている。一体この人はどこで寝ていたのやら。
まずはベッドの上を片付けようとするが、そこへ行くまでの床にものが散乱している。たりは容赦なく紙類を麻袋、服を透明な袋に入れていく。
「様曲、後でちゃんと確認してよね。要るやつだけ取り出せばいいから」
「ここにおいている時点で必要ないものだ。服以外は捨てて良い」
「じゃあなんで捨てないのさ…」
ド正論。
シェアハウスいろはでは、不要になったが文字の刻まれた紙類は一箇所に集められる。これらに時空の狭間が生まれることはないが、文字としての力は宿っている。埋めて分解したり燃やしたりすることでその力を時空の狭間の大気へ還元させることが出来るのだ。
「じゃあ、ここの紙類は全部燃やしていい?」
「構わん」
「ほーい」
ぽいぽいぽいっと紙類を麻袋に入れるたりとやうなり。ふたりが真面目に片付けをする中、なりは何をしているかというと…
「ワタシ、このトリックやってみたいのである!」
本棚の本を勝手に読んでいた。
「なり!本棚には触るなとあれほど…!」
「順番変えるとか、いじってはないのである!」
屁理屈がお上手なことで。
「ほら、後で読めるから。今は集めてよ紙類」
「わかったのである…」
渋々、なりはすぐそばの紙をつかんで、たりから渡された麻袋に突っ込んだ。
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