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「やうなり!これ、すっごく見覚えがあるのであるが…」
なりは錆びついたロボットのように、ギギと音が出そうな動きで振り返ってやうなりを見る。その手に持っている少し皺のよった紙を見つけて、たりも驚いた顔をする。
「それ……いつの!?」
それは、何気ないメモだった。なりがよく使うこだわりのメモ帳のひとひら。
『ワタシはしばらく実験にこもるのである!よろしく!』
癖のあるなりの字で書かれたこのメモは、なりが部屋にこもる際にリビングにいつも置いていくものだ。毎度いつのまにかなくなっていたメモを気にする人は誰もおらず、みんな誰かが還元しているのだろうと信じて疑わなかったのだが。
「なに?これ全部残してるわけ!?」
ご丁寧に箱の中にまとめられたメモの数々。それはなりが書いたものだけではなかった。なりとたりが箱の中を漁り出す。
『今日の夜ご飯は任せた!ボクはもう寝る!』
これは半年前ほど、少し体調を崩したむずのメモ。眠かったのかどこかが痛かったのか、少し字が揺れている。
『歌みたの練習してるから、部屋入らないでね〜』
これはぬるのメモで、確か3ヶ月ほど前。丸みを帯びた字だ。
『執筆中ですので、部屋へはお入り頂かないでくださいますよう、お願いしますの』
これは10ヶ月前か。すすがいいアイデアを思いついたと言っていた頃。美しい崩し字で、読めない人は読めないかもしれない。助動師は関係ないが。
『はい!遊びに来る人庭に来てください!』
一番最近なのはこれ。られるがいそいそと書いていたのを覚えている。ちなみに鬼ごっこをしたようだ。
「あぁ、それは全て私が譲り受けている」
何事もないように、紙を麻袋に入れながらやうなりが答えた。
「だからなんでさ!」
「個人的な話にはなるが、皆のメモが好きなのだ。集めているだけだから問題なかろう」
「問題大アリである!」
やうなりは、心の底からわからないという表情で言った。
「言葉は私たちの本質だろう?集めてなにが悪い」
す、と視線を奥にやって、やうなりは思い出したかのように付け加える。
「そこの箱は捨ててくれるな。ここの歴史が詰まっているのだ」
その言葉になにを思ったか、さらにおそるおそるといった声色でたりがやうなりに尋ねた。
「もしかして、歴史って言った?今……」
「あぁ。きしもこのコレクションのことは知っている」
「やっぱりあの変態歴史オタク!!!!ゴホっ」
埃を吸ったのかたりが咳き込む。彼の背中をさすりながら、ぼそっとなりが呟いた。
「恐ろしいタイムカプセルである……」
我らが保護者は、片付けが苦手。
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