クリスマス

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クリスマス

 助動師の一番の力の源は、人々の想い。二番手に助動詞単語。そして、もう一つ大切なのが『言葉の並び』である。  言葉のあるところに助動師ありといえども、彼らにも存在しやすい環境がある。助動詞を含む環境は言うまでもないが、二文字以上の助動詞単語と同じ言葉の並びがある環境も、彼らには心地よいものだ。  今宵、現世では『クリスマス』と呼ばれる特別な日である。このシェアハウスいろはでも例に漏れず、完続たりがツリーを立てて、むずお手製のごちそうを食べて、賑やかな助動師たちの声が寒空を彩る。  もちろん、楽しいイベントとしてパーティしているのも理由のひとつだが、一番の理由はそれではない。 「ほら、今日は(いずく)の日なんでしょ。もっと楽しみましょう?」 エプロンドレスの定寧(さだね)ですは、誕生日の特別な三角帽子のようなものをつけた寧ますに話しかけた。当の本人は困ったような顔をしている。 「どうして毎年祝うのですか……。僕はこのような席は苦手だと知っているでしょう」 ますは噂の本人よりも(はしゃ)いでいる仲間たちを見つめて苦笑した。  とはいえ、今日の主役は間違いなく、ますだ。 「だってほら、クリスと寧。今日はますの特別な日でしょ」 「まぁ、そうですが……」 クリスマスの日。現世には『クリスマス』という単語が溢れる。つまりなにが起こるかというと… 「だからといって、これはやりすぎと思いますがね」 淡く発光するます。大小光の粒はゆらゆらと揺れて、やがてすうっと空中に還元される。  この光は、使いきれなかった力を光として使ったものだ。もともと、時空の狭間に存在するための力は助動師一人一人に備わっている。力の出どころはもちろん、先述の3つが主だ。『ふうん。励起状態みたいである!』とは、所断なりの言葉。この言葉がきっかけで、ここのシェアハウスいろはでは、助動師のこの状態のことを『励起状態』と呼ぶことになった。 「はあ、この日だけは余分に力を得てしまいます。元気なはずなのに、少し疲れました」 「そりゃあ、『れーきじょーたい』は疲れるらしいですからね。そんなことより、ほら、あれ食べましょ!」  ですはぐいぐいと腕を引っ張る。そこは、むず特製のおにぎりが並んでいるテーブルだ。 「あれ?ます!おにぎり食べる?」 手に持った食べかけのおにぎりを寄越してきた先客の自望(じのぞみ)たいは、キラキラとした目でこちらを見る。困惑する二人に、たいは「なんてね」とけらけらと笑う。 「さっきね、伝聞(きく)に同じイタズラされたの!はい、塩おにぎり」 たいは新しいおにぎりを二人に渡す。隣に座るよう促して、たいを挟むようにですとますが座った。今日のたいのアイドル衣装は普段の青いものではなく、もみの木をイメージしたような緑色の生地に色とりどりのオーナメントのようなパールが散りばめられたものだ。 「今日も素敵ですね。その服は?」 「この服ね、お願いしたらたーちゃんが作ってくれたの!」 尋ねたますに、たいは明るく答えた。 「いいですね〜!私もお願いすればよかったかもです」 いつものシンプルなエプロンドレスをつまんで、ですが少し肩を落とす。しかし、たいがですの手を掴んで、きゅっと握った。 「今度のお祭りは私の日!たーちゃんに、お揃いでお願いしようよ!」 「「!」」 ハッとして目を見合わせる敬語組。きょとんとたいは首を傾げた。 「そっか!バレンン!」  その年のバレンタインは、お揃いお洋服が流行ってしまい、三瓶そんたがめちゃくちゃ頑張って大量の服を作ったことはまた別のお話……。
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