9人が本棚に入れています
本棚に追加
雨上がり、悪戯好き
「あ……」
「また降ってきました!」
公園の入口へと戻って来ると、木々の葉に無数の水滴が跳ねる音が鳴り始めた。
その速度はどんどん加速して、僕たちの肌にも無数の水滴がぶつかり始める。
「これも、雨上がりだからだね」
「僕、傘持ってない。走ってとりあえず傘取ってきます!」
立ち止まっている間にどんどん雨は強くなってくる。まだ太陽の光線が雲から漏れているというのに、容赦なく雨粒は肌を濡らしてくる。
走って家に戻ろうと駆け出した瞬間――。
「待って!」
「でも、先輩も濡れてしまいますよ!」
「……あるよ。ここに」
僕の手首を掴んだ先輩。
さっきのこともあってか、心臓の音が全身に響いている。
先輩はもう片方の手で、握っていた傘を僕に見せてきた。
「雨上がりだから起こること。傘はお一人様専用じゃないよ?」
その言葉と視線に、僕の鼓動は加速していく。
ここまで来て断ることは出来ない。後悔する。と覚悟を決め、僕は返事をした。
「お、…………お邪魔します」
「ふふっ、楽しいでしょ?雨の日も」
「こんなに楽しい雨の日は初めてです」
早く早くと僕を急がせた先輩――。
果たして何処までが、"先輩の悪戯"だったのか……。
『僕もそんな雨宮先輩が好きです』
今日、雨が降らなければ、先輩との距離が近くなることはなかっただろう。
僕は初めて、その"悪戯"に感謝をした。
"雨"先輩は、本当に悪戯が好きみたいだ――。
〜おしまい〜
最初のコメントを投稿しよう!