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雨の日、一件の通知あり
雨――。
どうやらそいつは悪戯が好きみたいだ。
休日に雨が降ると憂鬱な気分になってしまう。
特に、外へ出ることも面倒になるほどの大雨の日というのは、せっかくの休日を損した気分になる。
「何も、休日に降らなくてもいいじゃないか」
高校二年生の僕、山本春太は、雨の悪戯によって外に出ることが出来なくなっていた。
雨の日は皆同じことを思うのだろう。『遊びに行こう!』とか『今日は暇?』とかそんなことにはならない。連絡さえも来ない。
雨模様ということが事前にわかっていれば尚更だ。
「何をしよう」
しかしそれでは、損した気分になってしまうのだ。
せっかくの休日に限って、雨は悪戯を仕掛けてくる。
とてもとても迷惑な話だ。
「ん?」
誰もが外へ出たくないと思う雨の日――。
それは、とある一人を除いての話だった。
"1件の新着通知があります"
突然、スマホの通知音が鳴る。
誰も連絡などしてこないだろうと適当に置いてしまったために、その音源が何処にあるのか探す。
枕の下、布団の中、机に重ねられたノートの下敷きにでもなっているのかと、その音が出た場所を探す。
「あ、あった……」
人を駄目にするクッション。それを持ち上げると埋まっていたスマホがコロコロと姿を現した。
「誰だ?」
僕はその通知を開いた。
"今家にいる?"
誰からかと思えば、部活の先輩からだった。
僕は友達が多いわけではない。その中でも数少ない仲の良い先輩。しかも、女子の先輩と来た。
行動力があって、友達も多い。僕とは全く正反対なのだが、いつも話し掛けてくれる。
『いますよ』
きっかけは部活の帰り道――。
方向が同じで、部活終わりに一緒に帰ることが増えた。
僕の家の前を通り過ぎて、さらにしばらく歩くと先輩の家がある。何度か一緒に帰ったため、先輩は僕の家を知ってしまっているのだ。
『なら、少し出掛けない?』
『今日、雨ですよ?』
『外見てみな?もう降ってないよ』
『まじっすか』
ガラガラと窓を開けて外を見る。目の前に広がる景色へ手を差し出すとそこに雨の感触はない。
『止んでますね』
『ね?だから行こ?』
『いいですよ』
そこまで見て、トーク画面を開いたままにスマホをクッションへと投げる。
「まさか雨止むなんてな……」
部屋着のままで外に行くわけにはいかないので、引き出しを漁って服を揃える。
着替えながら、メッセージの続きが来ていないかとクッションに埋もれたスマホを手に取る。
"じゃあ、探してね"
「ん?どういうこと?」
上着に腕を通しながら、スマホのトーク画面を見るとそんなメッセージが続いていた。
そのメッセージを見て、服を着る手を少し止めてしまった。
『何をです?』
『わ、た、し、』
全然意味がわからなかった。
ふと、窓の外を見ると分厚い雲が嘘だったかのように溶けて来ており、隙間から太陽の光線が差し込んでいた。
『ただ一緒に行くのもつまらないでしょ?私を探してみて』
『せめて、ヒントをください』
『だーめ、外に出ればきっとわかるはず。早くしないと、私は遠く離れちゃうよ?』
先輩はこういうことが好きだ。僕をからかって、いつも楽しそうにしている。
そして、街の中で先輩を探すというのはかなり難しい。仲がいいとは言っても先輩が休日に何処へ行くのか、どういう事が好きなのか、僕もはほとんど知らない。
『早く、外に出てね』
「早く外に出る?」
良く分からなかったが、他にやることもない。だから、とりあえず急いで外に出てみることにした。
「眩しい……」
外に出れば、雲の隙間から差し込む光線が肌を熱くする。その光線は雨で濡れた世界の水分を蒸発させて、湿った空気を作り出している。
早くもアスファルトは乾き、所々に水溜りが形成されていた。
「とは言っても……何処を……」
ノーヒントで手がかりなし。
では、どうすれば先輩を探すことができるのか。
「あっ……」
なしと言いながら、実はヒントがあるらしい。
キョロキョロと周りを見てみると、雨上がりしか出来ないヒントが仕掛けられていた。
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