第0章 プロローグ。

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ここは紀元前222年07月07日。  場所は代〈現在の河北省〉〈=趙の亡命国家〉にある王宮・千里之宮(せんりのみや)趙の太子だった趙嘉が代の大王として玉座の間にてある人物からの報告を待ち構えていました。 その人物とは… 趙嘉「瑞季はいつになったら我が前に現れるのであろうか…?」 瑞季(みずき)…今は亡き李牧の最愛であり大将軍でもあったが軍師の趙荘の代わりに軍師代理も務めていた李牧の仕事上のパートナーでもあった。今はその遺志を継ぎ代の大将軍となっている性格は…控えめで好きな人の一歩後ろを歩く女性なのだが…天然気質なところがあり周りをあっと驚かすところがあります。 すると… 瑞季「大王様、申し上げます!」 趙嘉「瑞季、終わりの旋律が激しく鳴り響いている気がするのは私の気が迷っているからなのか?」 瑞季からの報告を待っていた割に、 繊細過ぎる大王は早くも気弱発言をしてしまいました。 瑞季「私は何も言っておりませぬ…。 大王様、少し落ち着いて下さい。」 すると… 瑞季の言葉を聞いてない人が 趙嘉の他にもおりました。 それは… 美雨(みう)…慶舎の恋人だった美貌と才能を持ち合わせた和名を持つ女性で今は亡き慶舎だけが和名ではなく美雨(メイユイ)と中国読みで呼んでいたのですがその遺志を継ぎ趙並びに代の軍師となりました。 美雨「大変です、秦軍の将軍である 李信並びに王賁(おうほん)が秦の大王である嬴政の命令を受け出陣をしました!」 瑞季「美雨も落ち着いて…。 どこに向かって出陣しているの? 燕太子・丹が暗殺未遂をした事に怒り狂っていたのだから…燕でしょ?」 瑞季は間者(スパイ)である琰殊(えんじゅ)からの報告により燕を滅亡させるために進軍している事は把握しておりましたが… 美雨「瑞季、燕を滅ぼすという事は 同盟を結んでいる我が国とてただではすまないと言う事よ…。」 そこまでは瑞季も把握しておらず、 美雨からの報告を聞いた途端… 瑞季「…嘘でしょ?」 李牧の後継者たる大将軍ではあるものの極めてアタフタしていました。   そんな2人を見た趙嘉は、 趙嘉「美雨、瑞季。すまぬ… 慶舎と李牧を守りきる事さえ出来れば…我が国の運命と2人の運命を守る事が出来たのに…」 自身の無力さに落ち込み 下を向いてしまいました。 そんな趙嘉に対して瑞季は、 瑞季「大王様は間違えた事をなさってはおられませぬ…。戦とは全てにおいてマイナスの事しか引き起こさないものでございます。それに…李牧様と慶舎殿が大王様のその言葉を聞けば悲しまれてしまいます…。」 繊細でナイーブだからこそ起きた事全てを自身の責任だと感じてしまう趙嘉の事を励ます事にしました。 ちなみに… 代がいま、厳しい状態となっているのは趙嘉の手腕が低下している訳ではなく色んな状況が代にとってマイナスに働いたというだけでございました。  趙嘉「幽繆王の…遷の暴走さえ止めていればこんな事には…ならなかったのに…」 趙嘉から名指しされた 幽繆王こと趙遷は趙嘉の異母弟で 悼襄王の寵姫である美友(みゆ)の産んだ末子でしたが…政治に全く興味がなく挙げ句の果てには実母である美友が散財して火の車にした国庫の金に手を付け贅沢三昧をしたかと思ったら… 李牧を暗殺したりやりたい放題…。 龍「…大王様に言われたとてあのお方が止まるとは誰も思いませぬ。趙荘様もその事をずっと憂いておられました。」 どこから現れたのかは定かではないのですが瑞季の元カレ・龍が今は亡き師匠・趙荘の事を思い出していると… 趙嘉「…すまぬ、龍。趙荘の存在を綺麗さっぱり忘れておった…」 趙嘉は馬鹿正直に趙荘の存在を忘れていた事を告白した事でその場には何だか微妙な空気が流れてしまいました。 趙嘉はすっかり存在を忘れていましたが趙荘・慶舎が討ち死にした事と幽繆王が忠臣・李牧を暗殺した事で趙の軍事力は急速に低下しそれと同時に長らく続いた日照りにより農作物が枯れ果て大規模な飢饉が起きてしまいました 趙遷と美友が無駄使いをした国庫には 原状回復するようなお金などなく… 趙は韓に続いて2番目に滅亡…しましたがそれを納得出来なかった趙嘉、瑞季、美雨、龍などが趙の亡命国家である代を建国しました。 しかし… 秦の猛攻撃に単独で耐えられるようなような国力など一切持ち合わせていない代は… 瑞季「燕と同盟を結び秦からの猛攻に備えましょう。」 瑞季からの提案で燕王・姫喜と同盟を結びましたがそれこそ間違いでした。 但し… 美雨「燕以外は代と距離があったり壊滅寸前でしたから燕以外には同盟を結ぶ事が出来なかったと言うのが本音ではありますが…」 それから数ヶ月程前の 紀元前222年04月01日に時を遡った 秦の王都である咸陽(かんよう)では 嬴政(えいせい)…秦国の王であり後の秦始皇帝と呼ばれる中華唯一の帝となる男が精鋭部隊とされる王賁軍・並びに李信軍を鼓舞していました。 嬴政「丹とは趙の人質時代に友好関係を結んだと言うに私の暗殺を企てるとは…お前達には燕を倒し私の苦しみを終わらせて貰いたい。」 中華最強の国である秦の王にしては 極めて個人的な見解であるような気もしますが…燕太子・丹に暗殺されそうになった事は嬴政の心を深く傷つけていたのでした…。 王賁「…李信、お前の出る幕はない。」 王賁(おうはん)…秦の将軍・王灥の息子ではあるのだが王家の分家である王騎の方が目立っている事に怒り狂っていた父親を冷ややかな目で見つめる冷静沈着で頭脳明晰な美形の将軍で李信とは自他ともに認める宿敵である。 李信(りしん)…王賁とは宿敵だが、戦争孤児だった事もあり将軍の息子であり王家の血を受け継ぐ王賁とは身分違いではあるのだが…下僕から剣を頼みに将軍となった努力の人。 李信「政、王賁に絡まれるのが極めて面倒なのだが何とかしてくれ…!」 王賁「これだから身分の低い者は… 大王様を呼び捨てにするとは、 無礼を極めるその態度を改めよ!」 但し… 李信は口の聞き方があまり良くなく 言葉足らずである事も伴い反発心を懐くものは国内にもそれなりにいます。 李信「王賁、身分の低い者って同じ将軍なのに…どうしてそんな事を言うんだ?政…!何とかしてくれ…!」 李信が下僕という身分だった事を強調するそんな王賁に対して嬴政は、 嬴政「国内で争うものではない。戦とは戦場で行うものだと王騎が遺言したのを忘れたのか?」 馬陽の戦いで討ち死にした秦の大将軍・王騎の遺言を持ち出しました。 王灥は本家筋である自分より分家筋である王騎が目立っている事に怒り狂っておりましたが…王賁は王騎の事を誰より尊敬しておりました。 王賁「父が怒り狂うかもしれませんが王騎将軍は我が王一族の誇りです。それに大王様が仰せになられる通り国内で争う事は控えましょう。」 すると… 李信は嬉しそうに王賁の肩に 手を回しながら… 李信「王賁、では燕と代を滅ぼした手柄で争う事にするか?」 王賁「調子に乗るな!」  李信「調子に乗るって何のことだ? 俺がお調子者って事か!」 嬴政「お前達、少しは落ち着かぬか?」 こうして… 嬴政から説得された李信と王賁は、 燕と代を滅ぼすため秦国の威信をかけ 出陣する事となりました。 嬴政「昌平君ももうこの世におらず頼りになるのは李信と王賁だけだ。頼む、天下を1つにするため力を貸してはくれぬか?」 昌平君(しょうへいくん)…〈故人〉秦の最高司令官ではあったものの楚の血を受け継ぐ皇子だった。武力、知力、顔、性格、全てで完璧な彼を慕う人間は数多おりました。 (べに)「昌平君は誰よりも気高く美しい人でした。」 (べに)…身元不明の美女で和名も分からないため李信が昌平君を見て頬を紅色に染める様をそのまま名前にしてしまいました。李信の側近であり本能のまま動く李信の参謀役。 王賁「紅色に染まった頬を見て紅ってそのままにもほどがあるな…。紅も抗議をする必要があったのでは?」 李信「紅って名前も可愛いよな?と言うのは今は置いておこうか。燕を滅ぼしてすぐ代を滅ぼして王賁をぎゃふんと言わせてやる。」 王賁「ぎゃふん!言ったぞ。言ったから金をたんまり寄越せ。こちらは桜に子が産まれて何かと入り用だからな。」 嬴政「…そのような話はさておき… 早く出陣せぬか!一体どれ程時間がかかるのだろうか?」 嬴政に叱られた李信と紅、王賁は、 慌てて咸陽を飛び出しましたが… 李信「俺の背中を預けられるのは、 李信だけだ…って言えよ、王賁。」 李信と王賁はなかなか気が合うようで 喧嘩友達という立ち位置をそれなりに楽しんでいるようでした。 王賁「誰が言うか…。 頼まれても言ってやらんわ…!」 意外と馬が合っているようで… 燕と代に終わりの旋律を轟かせようとしておりました。 紅「困った2人だけど意外に気は合うのかもしれないわね…」 紅が嬉しそうに進軍を続ける2人の背を見つめていたまさにその時、 代では大将軍の瑞季が味方を鼓舞し、 瑞季「最後まで抗うしかないわ…。 愛する人達が忠誠を尽くした場所と人達を…」   何を考えているか分かりかねるくらい感情の乏しい龍は瑞季の言葉に頷き… 龍「…瑞季、美雨、皆で抗おう。」 美雨は今は亡き愛しい慶舎の事を思い浮かべておりました。 美雨「慶舎様と」 慶舎『美雨、離れていても魂だけはいつも傍にいるから安心していろ。』 瑞季「李牧様は…」 李牧『瑞季、誰より慕っています。否、貴女が産まれた時代の言葉を使うと愛しています。』 2人が在りし日の愛しき人達を想い出し自らを奮い立たせると… 趙嘉「皆、頼んだぞ…」 趙嘉はその決意を後押ししました。 但し… まだすぐには秦の軍勢が来ない事もありまして… 趙嘉「覚えているか?瑞季、美雨、龍。我らが出逢った日の事を…」 皆は今は亡き李牧と慶舎達の思い出を語り始めました。 瑞季「覚えております、今でも鮮明に…まるで昨日の事かのように…」 李牧『瑞季、私も同じ気持ちです。 隣で貴女の手を握り共に秦の猛攻に抗う事が出来たなら良かったのですが…』 美雨「私も昨日の事のように 覚えております。」 慶舎『美雨と出逢えたあの日は、 私が初めて人を愛することが出来た記念の日でしたからね…』 龍「…趙荘様が女だったら…やる気ももう少し出たかも知れないけれど…」 趙荘『龍、誰が悪戦苦闘しながらここまで色んな知識を教えたと思っているのだ…?』
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