贅沢なこと

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 放課後になってスマホを見ると大志からメッセージが届いていた。 『先に帰ってて。後で家に行くから』  朝の可愛らしい封筒の中身は、放課後の呼び出しか、と息を吐いた。  行ってほしくないけど、そんなことを僕が言える立場ではないし資格もない。僕は嫌だと思うだけで行動に移せない。  僕とは違って気持ちを伝えられるのは尊敬する。僕は大志の幼馴染としての立場を失いたくなくて気持ちを隠し続けているから。 『分かった。用事があるなら英語の教科書は明日の朝でもいいよ』  そう送るけど、本心じゃない。大きなため息を吐いて教室を出る。  朝は2人で楽しく話しながら通った道を、沈んだ気持ちで1人で歩いた。  部屋に着いて着替えていると、息を弾ませながら大志が扉を開いた。 「あっ、ごめん」  Tシャツにパンツの格好に、大志が視線を逸らす。急いでハーフパンツを穿いた。 「大丈夫だよ、早かったね」 「……ちょっと話しただけだから」  誰と? 何を? とは聞けない。大志が濁したのだから、きっと僕の想像通りの内容だろう。 「英語の教科書、今日使わせてくれてありがとう」 「ううん、僕が間違えて持って帰っちゃったんだし」  僕の教科書が差し出されたから受け取る。本当は交換したままがいいなと思ったけど、教科書を並べている棚から英語の教科書を引き抜く。『1-1浅見大志』と書かれた教科書を渡した。  自分の教科書はスクールバッグに入れる。明日は英語の授業がある。ついでに明日使う物と使わないものを入れ替えた。 「今日は英語の宿題はないのか?」 「ないよ? だって授業なかったし」 「……それもそうか」  大志は体の前で腕を組んで、うーん、と唸りながら考え込む。 「どうかしたの?」 「いや、何でもない。夕飯の時間までここにいてもいいか?」 「もちろん。ゲームしよ」  大志と一緒だと時間があっという間に過ぎていく。  幼馴染としてでも隣にいられることは幸せだ。
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