贅沢なこと

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 次の日の4時間目が英語の授業だった。先生が指定したページを開く。  右下に『け』と書かれていた。  大志は教科書に落書きをしたから、教科書を交換した時に様子がおかしかったのか。  目の前で教科書を開いた僕がどんな反応をするのか見たくて。結局その時は見なかったから、今はあとで僕に怒られると思ったりしているのかな? 僕は怒ったりなんてしないけど。  綺麗な文字に指先で触れる。目尻を下げて口角を上げた。  大志がこんな子供みたいなイタズラをするなんて、僕しか知らないんだろうなと嬉しくて胸がときめいた。  授業は次のページに進む。めくると今度は『が』と書かれていた。次のページにも何か文字が書かれているのかな? 気になるけど授業を聞いて板書をするのに集中する。  次のページになり、そこには『す』と書かれていた。  けがす? 汚す? それとも次は『る』で怪我する? そんなことを考えていたらチャイムが鳴った。  授業が終わって昼休みになる。ページをめくると『き』だった。その次には書いていなかったからそこで終わり。『けがすき』よく分からなかったから『け』の前のページを見る。『す』と書いてあった。  最初に文字が書いてあるページを探す。順番に読んでいくと『けいすけがすき』と書いてあった。見間違いかと思って3回は確認した。間違いなく『けいすけがすき』と書いてある。  大志が僕を好き? 好きって僕と同じ好き? 胸の内からじわじわと熱が全身に回った。  すぐに立ち上がって1組に向かう。  教室を覗くと大志はすでに友達とお弁当を食べていた。すぐに気付いてくれて、こちらに向かって歩いてくる。 「どうした?」 「あのさ、今日の1時間目から4時間目の授業がなんだったか教えて」  大志は首を傾けるけど、思い出すように斜め上を見ながら教えてくれた。 「えっと、国語数学体育日本史だったな」 「じゃあ、国語の教科書貸して。忘れちゃったから」  本当は何でもよかった。この後使わない教科書なら。  顔に熱を集めたまま言えば、大志の頬が少し染まったように見えた。僕が見たって気付いたのかな?  大志は自分の机から国語の教科書を出して僕に貸してくれた。 「返すの、お家に着いてからでもいい?」 「ああ、HR早く終わったら5組に行くから」 「僕が早く終わったらまたここに来るね」  手を振って足早に教室へ戻る。  自分の席に座ると大きく深呼吸をして大志の国語の教科書を開いた。1ページに1文字、丁寧に『たいしがすき』と書いてすぐにスクールバッグにしまった。
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