10 祭りの夜

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 10ー11 一度だけでも  エリクさんの言葉にウルダムさんとデミルさんは、黙り込んだ。  ルシアさんが涙をそっと拭っている。  「お前は、変わったんだな、エリク」  ウルダムさんがぽつりとこぼした。  「今までのお前は、いつも何もかも諦めたような目をしていた。それが何かを望むようになるとは!」  ウルダムさんがエリクさんを見た。その目は、潤んでいて。施政者というよりは、従兄弟としての眼差しだった。  「私としては、ユイ様には、このままエリクのもとで暮らしてもらいたい。だが・・」  ウルダムさんは、ちらっとデミルさんのことを伺った。  「神殿がなんというか。聖女のことについては、王宮より神殿の方が力を持っているからな」  「私も」  デミルさんが嫌そうに告げる。  「私だって、ユイ様のことは、ユイ様が望まれるようにして差し上げたい。だけど、聖女は、国の宝ですから。特にユイ様は、大聖女の素質をお持ちですからね。私の個人的な考えではどうすることもできません」  「じゃあ、私のことは、ここだけの話ですましてくれたら?」  私は、デミルさんににっこりと笑いかけた。  「私は、ここには、いなかった、とか」  「それは、無理ですよ、ユイ様」  デミルさんが半笑いを浮かべる。  「ここにあなたがいることも、あなたが数々の奇跡を起こしていることも神殿には、伝わっています」  はあ?  いったい誰がチクったんですか?  私は、じとっとデミルさんを見た。デミルさんは、慌てて私を手で制した。  「違いますよ!まあ、確かに私も報告はしましたが、私が知らせる前からこの『ヴェータ』沼に聖女がいることは噂されていましたから!」  なんですと?  私は、デミルさんを疑わしげな目で見ていたが、ウルダムさんも肯定した。  「確かに。王都の民たちの間でユイ様のことは噂になっていますし、実際にこの『ヴェータ』沼に移住してきている人々もいるようです」  そうなの?  私がルシアさんを見ると、ルシアさんがこくっと頷いた。  マジですか?  「王宮も神殿ももう、無視することはできないほど、民衆は、ユイ様のことを聖女として慕っていますから」  ウルダムさんが話した。  「ここは、一度だけでもいいから王都においでいただき王宮や神殿に顔を出していただけないものかと思いますが」  ええっ?  マジで?  
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