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1ー9 貴重で高価なものなんだよ
「何って」
エリクさんが当然のことのように言い放った。
「エリクサーを取り置いているんだが」
それが何か?みたいにエリクさんに言われて私は、ちょっと怯んでしまう。でも、すぐにきっとエリクさんを睨み付けた。
「わた、私の入ったお風呂のお湯を何かに使おうとするのやめてくれませんか!」
「ええ?」
エリクさんが手を止めると瞬きして私を見つめた。
「しかし、これを捨てるのはもったいないだろう?」
はい?
私は、恥ずかしさに頬が熱くなる。
「だって、だって」
「いいか?タザキ」
エリクさんが私を諭すように話し出した。
「この『ヴェ-タ』沼では、薬は、貴重なものなんだ。特にエリクサーみたいな特別な薬は、ここの人たちにとっては、一生目にすることもないようなものなんだよ」
「でも!」
私は、負けずにエリクさんを見つめた。
「私の乙女の純情は?」
「乙女の純情?」
エリクさんがキョトンとする。
まるで、そんなものがこの世に実在すると初めて聞かされたというように。
マジですか?
私は、興奮してふーふーと威嚇する猫のようになっていた。なんとかしてお風呂の残り湯を捨てさせなくては!
「そんなに必要なら、いくらでもまた作りますから!」
私が言うとエリクさんがぱっと顔を輝かせる。
「本当に?」
こくんと私は、頷いた。
エリクさんは、私が新しく薬を作るのと引き換えに私が入った後のお風呂の湯を捨ててくれることに同意した。
でも、なんか、もったいなそうにしてるから私は、エリクさんが全てのお風呂の残り湯をドブに捨てるのをきちんと目視で確認した。
エリクさんは、桶の湯をドブに捨てると私に笑いかけた。
「これで全部捨てたよ、タザキ」
辺りはもう暮れなずんでいて私とエリクさんは、小屋の中に戻り、エリクさんのすすめで夕食をいただくことになった。
といってもテーブルは、さっき私が横になっていた台だし、食べ物は、固い干し肉の塊が2個ほどとこちこちの石みたいな黒パンが1つだけ。後は、水。
私は、ぐうぐうお腹が鳴っているにもかかわらず少しも食べられなかった。
特に、水。
なんか、生臭い臭いがしてるし!
私は、エリクさんの小屋の台所らしきところに置かれていた水瓶を確かめた。すると、それは、中に黒いカビが漂っていてなんかの虫がいっぱい発生していた。
「ぎやああぁっ!」
私は、悲鳴をあげるとその水瓶の水を外のドブに捨てた。エリクさんは、私をすごく冷たい目で見ていた。
「なんてことをするんだ?タザキ」
「だって!ガビが生えてるからっ!」
水瓶の水を捨てると私は、魔法で水を出してその水瓶を洗い始めた。
エリクさんは、それをじっと見ていたが私に冷ややかに告げた。
「君は、水を出せるのかもしれないが、ここではそんな力を持つ者は少ないんだ。君が今、沼に捨てた水は、とても貴重で高価なものなんだよ、タザキ」
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