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10 祭りの夜
10ー1 だって、イケメンだし!
その日、『ヴェータ』沼の全てのクルの木の花が咲き、辺りには、甘い香りが漂っていた。
空は、青く澄み渡り夏の終わりを告げるような爽やかな風が湖を吹き抜けていた。
私は、早朝にエリクさん家の前の湖の水で体を清めていた。
デッキで薄い木綿っぽいチュニックを身にまとい、『ヴェータ』沼の水を手桶で汲みそれをルシアさんがそっと私の肩にかける。夏とはいえもう湖の水は、冷たくて。私は、体を強ばらせていた。
ルシアさんは、遠慮なくばさばさ水をかけてくるし!
「ちょっと手加減して!」
私が小声で言うとルシアさんも小声で返した。
「だって、ほんとは、湖に入らなきゃいけないんですよ!」
そう。
ルキエルが言うには、本当は、湖に入って身を清めなくてはいけないのだという。だけど、湖に入ったりしたら溺れかねない。
そこでデッキでの水浴びとなった。
ほどなく私の全身が濡れそぼるとルシアさんは、満足して手を止めてくれた。
その後、私は、白い布にくるまって家の中へと戻った。
マジで、風呂に入りたい。だって、寒いから!でも、ルキエルがダメっていうから私は、くしゃみをしながら部屋へと戻り儀式のための服に着替えた。
もちろん『ヴェータ』沼の青に染められた厳かな式服だ。ルキエルが出した指示を私がみんなに伝えて作られた。
神官が着てる服のドレス版って感じかな。とにかく裾が長い!なんならウェディングドレス並みに長い!
ルシアさんが鏡を見ながら私の髪を美しい編み込みにして後ろに結い上げる。ちょっと引っ張られて痛いけど、すごくかわいいから許す。
そして。
私の髪やらドレスやらにクルの赤い花を飾り付ける。
うん。
やっぱりここの象徴は、クルの花だし!
準備ができると私は、ルシアさんに手をとられて部屋から出ていく。
ちなみに空腹でお腹が鳴っている。けど、今日は、レンドールさんのおいしい朝御飯が食べられない。
別にドレスが汚れるからとかではなく、儀式的にあかんらしい。
玄関へ向かうとエリクさんが待っていた。
まだ、早朝なのに?
私は、不思議なものを見るようにエリクさんを見ていた。
いつももっと遅くまで起きることがない筈なのに?
でも、もう礼服に着替えているエリクさんは、私を見て目を細める。
「綺麗だ、ユイ」
やっぱりこの人は、ロリコンなのかな?
私の胸を複雑な思いがよぎっていく。
でも、まあ、いいか。
だって、イケメンだし!
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