10 祭りの夜

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 10ー2 女神の祝福です!  エリクさんに手をひかれて玄関を出て階段を降りていくとデッキの船着き場にノマさんが船を寄せていた。船にもクルの花が飾られていて華やかだ。私は、衣装に気をつけつつエリクさんのエスコートで船に乗り込んだ。  これが、ほんとの結婚式だったらなぁ。  ちょっと夢想しているとノマさんが船をこぎだした。私は、船の舳先の辺りに腰かけていた。  船は、『ヴェータ』沼の中央通りを抜けて森の船着き場を目指す。  静かな朝だ。  光が差すなかを船は、滑るように湖面を進んでいく。  と中央通りに出ると両側にはえたクルの木の上の家や商店から住人たちが船に向かってクルの花を投げてきた。  「ユイ様、きれい!」  「おめでとうございます!」  口々に祝いの言葉を投げ掛けられるが、結婚するのは私ではない。  私は、すんとしたままみなに手を振った。  花びらが飛び散り、夢の中のように美しい。  ふと後ろを伺うとエリクさんと目があった。エリクさんは、私に微笑みかける。  うぉっ!  早朝のイケメン爆弾が炸裂!  私は、頬が熱くなるのを隠すように前を向いた。  そのまま、進んでいくとじきに森の船着き場が見えてくる。  岸辺でクーノが待っているのが見えた。  ノマさんが船を寄せるとクーノがすかさず私の方へと手を差し伸べる。私は、クーノの手をとると式服の裾を気にしながら岸へと飛び移る。  「綺麗だ、ユイ」  クーノが私をエスコートしながら囁く。褒めなれていないので私は、胸が高鳴るのを止められない。  私の歩く道には、『ヴェータ』沼の青で染められた道ができていた。両側に並んだ神龍族の女性たちがクルの花を私が歩む先に投げかける。  なんだか、ほんとに私が花嫁みたいだな!  視線を感じて横を向くとクーノが私を見つめていた。妙に優しげな瞳に心臓が跳ねる。  まったく!  クーノのくせに生意気な!  私たちは、神龍族の街の中央の広場までいき、そこにある女神の像の前に作られた台の上に上った。  一斉に広場を取り囲んだ何組かの花嫁花婿と観客たちから歓声があがる。  私は、花嫁花婿を見回した。  それぞれが好みのドレスに身を包んでいる。ただ、色は、濃淡はあれど『ヴェータ』沼の青一色だった。  遠くにエリクさんとキンドさんの姿もある。そして、その横には見たこともない中年のおじさんの姿があった。  あれ、誰?  そう思いながらも私は、儀式を始めるように側に控えていたデミル神官に促されてすぅっと深呼吸をした。  クーノは、もう、台を降りており今、みなの前に立っているのは私1人だ。  私は、もう一度みなを見回すと祝福の言葉を告げた。  「ここに今日、集った新しい夫婦となる者たちに幸いがあらんことを!」  私は、胸の前で手を組み、目を閉じる。  どうか、みなが幸せになりますように。  どっとどよめきが起こる。  目を開けると。  空から白いフワフワしたものが降ってくるのがみえた。  「信じられない!」  背後でデミル神官が声を漏らした。  「女神の祝福です!ユイ様」  
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