10 祭りの夜

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 10ー4 そんなに笑わなくたって!  私がやっとハイテンションのデミルさんから解放されてエリクさんたちと合流できたのは、もう昼も過ぎた頃のことだった。  エリクさんは、私が駆け寄っていくと笑顔で隣に立っていたおじさんを紹介してくれた。  「紹介するよ、ユイ。この人は、私の従兄弟で宰相をしているウルダム・オ・ラ・ティクスだ」  「初めまして、ではないのですが・・エリクからきいたことによるとあなたは、この国に来てからのことを忘れておられるとか」  おじさんが私に手を差し出してきたので握手する。  知らない人に知っているんだけど、とか言われるのってちょっと気まずいな。  「すみません。私、ここ何年かの記憶がなくて・・」  「いえ、大丈夫です。それは、あなたが悪いわけではないですから」  ウルダムさんがにこにこ笑顔で話した。  「今、エリクからあなたのことをいろいろきかされていたんですが、なんでも聖女たちの中のどなたかにお会いになりたいとか」  「ええっ?」  私は、思わず手を合わせてウルダムさんのことを拝んでいた。  「会わせてくださるんですか?」  「それは、わかりかねます。聖女の中には気難しい方もおられるので。でも、できるだけあなたのお力になれたらとは、思っています」  私は、暗かった目の前がぱぁっと明るくなるのを感じていた。  これで、もとの姿に戻れる!  17才の私に!  こんなロリータ仕様の私じゃなくって大人な私に戻ってルシアさんを蹴散らせる!  私たちは、神龍族の街の片隅に用意されたテーブルについて食事をしながら話すことにした。  というのも私のお腹がぐぅっと鳴ってしまったので。  それも、かなりの大音量で。  みんな笑っていたけど、私だけは、笑えなかった。  だって、エリクさんにまた呆れられてるに違いないから。  でも、今日は、朝からほとんど何も食べてなかったし!  しかも、デミルさんと踊ったりしてたし!  とにかくお腹がすいてたの!  テーブルにつくとすぐにごちそうが運ばれてきた。  焼いた肉の山に、白パン。それにスープ。  肉は、森で狩ってきた大きなウズラみたいな魔鳥ラスタをクルの木からとった蜜を絡めながら焼いたものだ。テラテラしてて美味しそう!スープは、キノコのスープだ。それもただのキノコではない。すごくおいしいといわれている幻のキノコ、ノコダケのスープだった。とっても濃厚な味がする!  私は、しばらく夢中で食事を食べていた。だって、すごくおいしいから!  神龍族の秘密のスパイスを使った料理は、どれもこれも絶品なのだ!  はっと気がついたときには、もう、遅かった。  ウルダムさんは、ぽかーんと口を開けて私を見ていた。  しまった!  私は、慌てて取り繕おうとした。  「この焼いた肉、とってもおいしいんですよ。宰相閣下もどうぞ」  ウルダムさんがふはっと吹き出す。  ええっ?  私が驚いているとエリクさんまで笑い出した。  ひどい!  なにもそんなに笑わなくたって!  
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